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レイフ・ファインズ監督作『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』を彩る3つの師弟関係

レイフ・ファインズ監督作『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』を彩る3つの師弟関係

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主役は演技初挑戦のバレエダンサー



 ファインズらしさ。それは映画作りのプロセスにも強く表れている。例えば、ここにはハリウッド映画でよく見られる「ロシア人が英語を話す」という不自然な描写は皆無だ。それに舞踏シーンでボディダブルを使って俳優の顔を入れ替えるようなこともしない。彼が追求したのは偽りのない表現であり、この方針を貫くためにまず必要なのは「演技とダンスのできる人材」をキャスティングすることだった。


 この大役に抜擢されたオレグ・イヴェンコは、ウクライナ出身のダンサーだ。演技の経験は皆無だが、しかしそんな彼がファインズの目にはダイヤの原石に映った。カメラの前で見せる堂々とした態度、プロ顔負けの“恐れのなさ”。映画に愛されるフォトジェニックな容姿も決め手となった。そして何よりも、彼には人の話にきちんと耳を傾けて、それに合わせて内なる思考や感情を柔軟に立ち上がらせる素養が備わっていた。それは演技をマスターする上で最も大切なことだった。




 おそらくファインズには打算があったのだ。自分がバレエを教えることはできないが、素人の若者にゼロから演技を教え込むことはできる————。彼はこうして、監督として、俳優として、この若き青年に“演じる術”を一つずつ伝授していったのである。



本作に欠かせないもう一つの重要なキャスティング



 ファインズはもう一つ、重要なキャスティング仕事を抱えていた。ヌレエフの指導教師、プーシキン役である。ロシア人俳優などに幅広くあたってみたものの、なかなかこれといった適役が見つからない。そこでプロデューサーから挙がったのが「だったらレイフが演じればいいじゃないか」という声だった。もともと出資者たちから出演を切望されていたこともあり、今回は監督に徹しようと思っていた彼も最後は折れ、自らプーシキン役を演じるのを了承したという。


 だが、いざ演じるとなると、やはりファインズは凄かった。この演技に触れた人は誰もが「ええっ!」と驚くはず。なぜならファインズは吹き替えなしでロシア語を完璧に喋っているからだ。




 実は、かつて彼はロシア映画『Two Women(MESYATS V DEREVNE)』(14)への出演を通じてロシア語の猛特訓を受けたことがあり、決して母国語のように操ることはできなくとも、ある程度のレベルはこなせるのだとか。今になって考えると、もしかするとこのロシア映画への出演や言語の習得は、後に自身が『ホワイト・クロウ』を手がけることを見込んでの周到なる布石だったのかもしれない。


 このバレエ教師は、ヌレエフの才能をいち早く見抜き、「君は(バレエの表現を通じて)何を物語りたいのか?」という芸術の本質論を突きつける重要な役柄でもある。こういった出会いによって感性を刺激されたことも一因となり、ヌレエフはやがて「亡命」へと大きく踏み出すことになるのだ。



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