2017.10.02
自作自演の大先輩、スパイク・ジョーンズという才能
“ダニエルズ”は手作業を好むクラフトマンシップという点でゴンドリーを彷彿とさせるのだが、筆者にとってはよりスパイク・ジョーンズを想起させる存在だ。その理由は、ひとを食ったようなユーモアのセンスと、自ら進んでパフォーマンスに参加してしまうフットワークの軽さにある。
スパイク・ジョーンズは『スリー・キングス』(1999)に出演するなど役者としても活躍している。プロデューサーを務めるMTVのバカ番組「ジャッカス」にも顔を出していて、劇場版では老人の特殊メイクで街行く人々にイタズラをして回っていた。
そんなジョーンズのパフォーマンス力が最も冴えわたったのはファットボーイ・スリムのMV「Praise You」だろう。製作費わずか800ドルで作られたこのビデオは、とある映画館の前に“トーランス・コミュニティ・ダンス・グループ”なる集団が集まり、ファットボーイ・スリムの曲に合わせて珍妙な素人ダンスを披露する、という完全に無許可でゲリラ撮影されたものだ。
『Praise You by Fatboy Slim』MV
そして、このビデオのために捏造された“トーランス・コミュニティ・ダンス・グループ”のリーダーとして率先して踊っているのがスパイク・ジョーンズ本人なのである。ダンススキルはほぼゼロなのに、さもセンスありげにメンバーを扇動するうさん臭い男。ジョーンズのすっとぼけた持ち味がダイレクトに作品の魅力とユーモアに直結した、クリエイターによる自作自演の金字塔だと思っている。
このビデオはMTVビデオアワードで多くの賞に輝き、架空の存在だったはずの“トーランス・コミュニティ・ダンス・グループ”を率いて授賞式でダンスパフォーマンスを披露するというおまけまで付いた。