※左:ロジャー・ディーキンス 右:サム・メンデス監督 (c)Photofest / Getty Images
カギとなる撮影スタイルは、物語の背景にカメラが控えていることだよ。ロジャー・ディーキンス撮影監督『1917 命をかけた伝令』【Director’s Interview Vol.54】
簡単なシーンは一つもない!
Q:本作には永遠と続く塹壕や川、壊れた橋、破壊された町等、さまざまなシチュエーションが出てきます。そのなかでもっとも困難だったのは?
簡単なシーンはひとつもなかったよ(笑)。技術的なチャレンジで言うと、スコフィールド(ジョージ・マッケイ)が倒壊した橋を渡るシーンで、大規模なワイヤーのリグ(撮影装備)を用いて撮ったあと、ハンディカメラに渡して彼を追いかけたんだ。ひとりのカメラマンから、もうひとりのカメラマン、そしてもうひとりと、そうやってつなげて撮影して行く。問題なのはその一連のシーンの最後のカメラマンになったとき。これを失敗すると最初からすべてやり直しになる。失敗は許されないからもうドキドキだったよ(笑)。
あとは天候だ。映像をひとつのピースだと感じてもらうために、これを一定に保たなければいけないから、天気に左右されることは何度もあった。
Q:一番の長回しのシーンは?
農場のシークエンスだね。確か9分くらいの長回しだったと記憶している。飛行機が墜落するシーンのためにいくつかの要素を最初に撮影し、ポストプロダクションで合成したんだ。飛行機が墜落した瞬間からはワンカットで9分くらいだった。
Q:お話をお伺いしていると、驚くほど大変ですが、カメラマンとしてはとてつもなくチャレンジングだったのでは?
もちろんだよ! 途方もなく大変ではあったが「やらなきゃよかった」などと考えたことは一度もない。むしろ、こんなチャレンジをやらせてもらうチャンスなどないから、任せてもらいお礼をいいたいくらいだった。撮影の初日は塹壕のシーンだったんだが、それはまるで実体験しているような映像だった。それを観た全員が、思わず声を上げるほどの臨場感だったんだ。サムには素晴らしい旅に同行させて貰ったという感じだ。感謝しかないね。
Q:今回のサム・メンデスを始め、コーエン兄弟やドゥニ・ヴィルヌーヴ等、あなたは素晴らしい監督との仕事でも知られています。カメラマンにとって、理想的な監督との関係性はどのようなものでしょう?
コラボレーションだ。コラボレーションがすべてと言ってもいい。優秀なカメラマンだけいてもいい映画には絶対にならない。それは判るだろ? 監督が才能ある人物でないと、いい映画は生まれないんだ。だから、サムのような監督と一緒に仕事をすれば、自分も優秀なカメラマンになれるわけだ(笑)。素晴らしい監督に引っ張って貰えばいいということだよ。
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撮影監督:ロジャー・ディーキンス
『ブレードランナー 2049』(17)でアカデミー賞®撮影賞、さらに自身4度目となる英国アカデミー賞も受賞。『ショーシャンクの空に』(94)、『ファーゴ』(96)、『クンドゥン』(97)、『オー・ブラザー!』(00)、『バーバー』(01)、『ノーカントリー』(07)、『ジェシー・ジェームズの暗殺』(07)、『愛を読むひと』(08)、『トゥルー・グリット』(10)、『007 スカイフォール』(12)、『プリズナーズ』(13)、『不屈の男 アンブロークン』(14)、『ボーダーライン』(15)など13作以上でアカデミー賞®にノミネートされている。さらに、これまで全米撮影監督協会賞に15度ノミネートされ、『ショーシャンクの空に』(94)、『バーバー』(01)、『007 スカイフォール』(12)、『ブレードランナー 2049』(17)の4作で受賞した。『バーバー』(01)、『ノーカントリー』(07)、『トゥルー・グリット』(10)では英国アカデミー賞も受賞。英国アカデミー賞では他に5度ノミネート経験を持ち、英国撮影監督協会賞を5度、インディペンデント・スピリット賞を2度、そしてナショナル・ボード・オブ・レビューの撮影功労賞を受賞している。また、全米撮影監督協会と英国撮影監督協会からも功労賞を贈られた。2013年には大英帝国勲章が与えられ、これほどの栄誉を授かった唯一の撮影監督である。そのほかの作品に『シド・アンド・ナンシー』(86)、『バートン・フィンク』(91)、『未来は今』(94)、『戦火の勇気』(96)、『ビッグ・リボウスキ』(98)、『ビューティフル・マインド』(01)、『ダウト ~あるカトリック学校で~』(08)、『ヘイル、シーザー!』(16)がある。『ウォーリー』(08)、『ヒックとドラゴン』(10)、『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』(12)、『クルードさんちのはじめての冒険』(13・未)、『ヒックとドラゴン2』(14・未)などアニメにも、ビジュアルコンサルタントとして関わる。
取材・文:わたなべまき
映画ライター。『TVブロス』『SFマガジン』『アニメージュ』等に執筆中。押井監督の初の人生相談本『押井守の人生のツボ』では編集と執筆を担当した。
(c)Photofest / Getty Images
『1917 命をかけた伝令』
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公式サイト:1917-movie.jp.