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リハーサルをいつもの50倍以上はやった。サム・メンデス監督『1917 命をかけた伝令』【Director’s Interview Vol.53】

リハーサルをいつもの50倍以上はやった。サム・メンデス監督『1917 命をかけた伝令』【Director’s Interview Vol.53】

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今年のアカデミー賞で作品賞・監督賞など10部門にノミネートされた、『1917 命をかけた伝令』。第一次世界大戦の戦場を舞台に、全編「ワンカット」という驚異的な映像を届ける野心作だ。仲間の命を救うために、伝令を届ける若き兵士とともに、映画を観るわれわれも戦争の真っ只中に導かれていく。初の監督作でアカデミー賞作品賞・監督賞を受賞した『アメリカン・ビューティー』(99)から20年。またしても映画史に残る傑作を送り出したサム・メンデスに、ワンカットへの思いや撮影の苦労、監督としての喜びなどを聞いた。


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ワンカットの映像は、企画の最初から意図していた



Q:この『1917 命をかけた伝令』は、第一次世界大戦に従軍した、あなたの祖父の話が基になったそうですね。どのような部分からインスピレーションを受けたのでしょうか。


サム:私が11歳か12歳の頃、祖父から戦争の話を聞いた。それまで祖父は、私たち子供にそんな話をしてこなかったので、よく覚えているんだ。戦争といっても、ヒロイズムや勇気の話ではなく、祖父が生き残ったのは偶然や幸運だったという点に驚いた。『1917』は祖父の経験を再現した作品ではないが、あの時の話が作品の起源になったのは確かだよ。


Q:あなたの祖父は5フィート4インチ(162cm)だったということで、今作のブレイク役のモデルになっていたりするのですか?


サム:いや、ブレイクは完全に私が作ったオリジナルのキャラクターだ。祖父の話はあくまでも「きっかけ」。もちろん伝令の任務は彼の話がヒントになったが、背景となった土地も含めて、基本的にすべてがフィクションだ。




Q:全編をワンカットの映像にするアイデアは、どの時点で生まれたのでしょう。


サム:この物語で映画を作ろうと思った時点、つまり企画が始まったときからのアイデアだ。2時間くらいの長さを想定し、それをワンカットでつなげる挑戦にワクワクしたのを覚えている。映画を観る人が、すべての瞬間で、登場人物とつながる感覚を味わってほしい。そのためには戦場を一緒に歩む必要がある。ワンカットの必然性は、そのあたりだったね。


Q:ワンカットを成立させるために、最も難しかったシーンはどこですか?


サム:すべてのシーンだ(笑)。まず全体の構成を考えながら、カメラがどう動き、どういう映像を狙うのかを考えた。登場人物への親密感を高めるため、カメラが主観の役割を果たすシーン。また、彼らの心象風景や周囲の認知、そして脇のキャラクターを見せるためにカメラが客観的な視点になるシーン。さらに旅のスケールを表現するために、カメラが俯瞰でとらえるシーン。それらをうまく組み合わせる必要があったのさ。


Q:カメラの動きが主体で、俳優はそれに合わせて演技したわけですか?


サム:まさに、そこがいちばん悩ましかったところだ。カメラの動きを優先するあまり、キャラクターの感情が失われる危険があった。俳優たちの演技がすばらしくても、カメラの動きが未完成だったり、あるいはその逆のパターンもある。どちらを重視するかは、つねにシーソーのように揺れ動いていたね。通常の映画なら、そのあたりを編集の段階で判断できるのだが、ワンカットの今作には不可能だった。




Q:ということは、かなりのリハーサルが必要になるわけですよね。舞台の演出も手がけるあなたは、映画でもリハーサルを重視すると聞いていますが……。


サム:たしかにリハーサルをするが、俳優を信頼しているので、ふだんの映画ではそんなにたくさんはやらない。しかし今回はリハーサルを、大げさではなく、いつもの50倍以上はやった。たとえば移動のシーンでは、俳優にセリフを話してもらい、何秒かかるか、どれくらいの距離を進むのかを確認する。更地に旗や杭を打って、その距離が決まったら、そこに果樹園などを作るわけだ。つまりリハーサルしてからセットを完成させる工程だ。また、実際の撮影はワンカットで統一させるため、曇天でしか行えないので、晴天時はリハーサルに使ったりした。こうしたリハーサル量のおかげで、俳優たちは演技を肉体の記憶として取り込めたと思う。演技をしていることを忘れさせ、そこに“生きている”状態になることは、時間のかかるプロセスだからね。



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