※左:ロジャー・ディーキンス 右:サム・メンデス監督 (c)Photofest / Getty Images
カギとなる撮影スタイルは、物語の背景にカメラが控えていることだよ。ロジャー・ディーキンス撮影監督『1917 命をかけた伝令』【Director’s Interview Vol.54】
ワンカットを作り出す
Q:全編ワンカットに見せる上で、もっとも大変だったのはどんなことですか?
『1917』に限らず、どんな作品にも言えることだが、ひとつひとつのシーンをつなげるため、カメラをどう配置するのか。これがもっとも重要で大変なんだ。それを決めるのは技術とクリエイティブなアイデアなのだが、まず前者はどうにかなる。技術的な問題は、優秀なスタッフを集め、チャレンジしたりトレーニングしたり、リハーサルを重ねれば大体はクリア出来るからね。
問題なのは後者のほうで、俳優とカメラはどんなコラボレーションをすればいいのか? あるいは何にフォーカスを当てるのか? それらの映像が観客にどんなイメージを思い起こさせるのか? そういうことに対する決定が、作品のクオリティの重要なカギになる。これこそがもっとも難しい。本作では脚本をもとに、それをまず決めることから始めたところが、ほかの作品とは大きく異なる。
Q:ということは、俳優とカメラのコラボレーションも撮影が始まる前に決めたということですか?
本作の場合、ほかの作品ともっとも違っていたのはブロックリハーサルだった。通常の映画だとブロッキング(演技を容易にするための俳優の正確な動きやポジショニング)はそのシーンを撮影する日の朝、役者と一緒に決めてからリハーサルを重ね、その後に本番の撮影に入るわけなんだが、本作の場合はそれをプリプロダクションの段階でやっておかなければいけなかった。つまり、実際の撮影が始まったとき、すでに撮影計画は緻密に立てられていたわけだ。
それで言うと、セットもどういうものにするのかは、カメラの動きを考えた上で決めていた。ということは、脚本しかない段階からカメラの動きのすべてを決定しなければいけないわけなんだ。こんなのは初めてだよ(笑)。
Q:作品のビジュアル・イメージはどうやって決めたのでしょう? 参考にしたものがあれば教えてください。
第一次大戦のビジュアルに関しては、かなり入念なリサーチをした。サムはもちろん、プロダクションデザイナーとも何度も話し合ったね。たくさんの資料のなかで私の心を掴んだのは一枚のモノクロ写真だった。何人もの兵士が何気ない場所にただ立っていて、そのなかのひとりの青年がカメラを見つめている。途方に暮れた様子でね。私はその写真がすべてだと思ったんだ。とても心を打たれてしまい、これこそが本作で伝えたいことなのではないかと思ったくらいだった。
この映画のインスピレーションの源のすべてがそれだとは言わないが、少なくとも私のインスピレーションの源になったと思うね。