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アイアンマンのように飛び、キャプテン・アメリカのように戦う『ロケッティア』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.43】

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ボバ・フェットから続くロケットパックの夢





 ジョー・ジョンストンとロケットパックと言えば、彼は映画監督としてデビューするより前にすでに有名なロケットパックキャラクターを生み出している。これは前回の記事でも少し触れたが、彼は『スター・ウォーズ』のスタッフだった頃、シリーズでも屈指の人気キャラクターとなる賞金稼ぎボバ・フェットを生み出したひとりなのである。


 デザインはもちろん、特に衣装・装備の制作は彼の仕事だ。傷だらけのヘルメットで顔を隠し、やはり年季の入った鎧に身を包んだ歴戦のバウンティ・ハンター。その独特のたたずまいにさらに魅力を加えるのが、背中に背負ったロケットパックである(SWではジェットパックと呼ばれることが多い)。


 初登場の『エピソードV/帝国の逆襲』では飛ぶことはないが、『エピソードVI/ジェダイの帰還』では火花を散らして空高く舞い上がる姿を見ることができる。もっともそれはほんの一瞬のことで、ボバ自身の出番もその後すぐに終わりを迎えてしまう。ハン・ソロに偶然背中を叩かれたことでジェットパックが誤作動を起こし、賞金稼ぎはあらぬ方向に吹き飛ばされてしまうのだ。結果、彼は砂丘に開いた大穴に落下し、その底に巣を張る蟻地獄と食虫植物を組み合わせたような怪物サルラックに飲み込まれてしまう。結局はトレードマークのひとつであり、ロマン溢れるジェットパックが命取りになるのだった。


 ボバ・フェットは無残にも穴の中に落っこちたが、ロケッティアはそれを引き継ぐかのように華麗に空を舞い、またボバとは正反対のヒーローとなる。


 マフィアにロケットパック強奪を命じたのは、ハリウッド映画スターのネビル・シンクレアで、その正体はヒューズの開発したロケットパックを手に入れるため、アメリカに送り込まれていたナチスのスパイだった。ジェームズ・ボンドのイメージが強いティモシー・ダルトンが、ナチスのスパイというのもおもしろいが、キザな優男の悪役というのもいい具合である。


 ナチスもまたロケットパックの開発を進めていたが(みんなロケットパックが好きだなあ)、ヒューズがいち早く解決した問題に未だぶつかっており、ロケットを噴射させた途端に背負っている者が火だるまになるという致命的な欠陥を抱えていた(ちなみに『アイアンマン2』でも同様に北朝鮮がアイアンマンを模したパワードスーツの開発に取り組むもうまくいっていない模様が描かれる)。シンクレアがドイツにロケットパックを持ち帰ってしまえば、空を飛ぶドイツ兵がアメリカはおろか世界中に飛来することになるだろう。夢の発明品が兵器に使われ、一変して悪夢をもたらすという恐怖が示唆されるところも芸が細かい。


 シンクレアはクリフの恋人ジェニーを人質に、彼を迎えに来たドイツの飛行船で逃げ果せようとする。グリフィス天文台のドーム屋根の向こうから、ぬうっと飛行船の鼻面が現れるシーンがかっこいい。人質となった恋人を助けに駆けつけるなんていう古典的でわかりやすい展開にも、ロケッティアの造形が新鮮さを与えていると思う。天文台の屋根の上ではためく星条旗のもとから飛び立ったロケッティアが、飛行船上に辿り着くと今度は巨大な鉤十字が描かれた翼のもとに着地するという一連の絵は、クリフが個人的な行動を取っていながらも、本人の知らないうちに世界を救う働きに繋がっていくという、ロケッティアのヒーローとしてのありようを示しているようで、上手だ。


 クリフの魅力はなにも考えずとにかく弾丸のように飛び出していくところでもあるだろう。無謀な曲芸飛行士としての性格がロケットパックという直接的なガジェットとぴったり合い、彼をロケットそのものに変身させる。彼は決して超人でも切れ者でもなければ、スマートでない戦いぶりには泥臭ささえある。全ては空を飛ぶ夢と恋人ジェニーのため。


 そのひたむきさは、もしかしたらいつの間にか大きなものを背負うようになったアイアンマンやキャプテン・アメリカには無いものかもしれない。『ロケッティア』はそんなかっこよさとかわいさを併せ持ち、未来への夢を背負って戦うヒーロー映画なのだ。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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