この映画の最大にして唯一の演出
大島:実は「女帝 小池百合子」とこの作品をセットで見たり読んだりするといい、と言ってくださる方が多いんです。
※「女帝 小池百合子」:今年5月に発表されベストセラーとなった石井妙子によるノンフィクション。学歴詐称疑惑や政界での遍歴、知られざる言動を丹念な取材によって描き出した。
Q:確かに「女帝 小池百合子」を読んでから映画を見ると、より一層深く楽しめますよね。
大島:まさにそうなんです。小池さんを見ていると、のしあがり方とかすごいじゃないですか。その時の権力者をちゃんと見極めて、細川護煕、小沢一郎、小泉純一郎って乗り換えていく。その3人の男たちはみんな政治信条が違うわけですよ。そうすると「小池さんって何でもいいんじゃん」と。なんでもいいから節操なく、うまく振る舞って権力の階段を上っていける。
でも小川さんは逆で、しっかりとやりたいことや政策があって、それが一番大事であるが故に出世できない。もう見事に対照的だなと思うんです。だから選挙でも小池さんに振り回されているんですよね。
Q:だから『なぜ君は総理大臣になれないのか』というタイトルが絶妙だと思いました。作品のテーマを見事に言い表しています。
大島:タイトルとそれを最初のシーンで小川さんに提示して、この映画のテーマを規定したことは最大にして唯一の演出です。「この問いかけに対する答えを知るために見る映画」ってなるじゃないですか。それ以外はストレートというか、あまり奇をてらわないスタイルですね。
Q:映画には大島監督本人が質問者として頻繁に登場しますが、それもスタイルとして意図的になさっているんですか?
大島:そうです。「出たがり」ってみんなに言われますけど(笑)
Q:どういう狙いがあるんですか?
大島:17年という時間の中で、一人の野党政治家を追う、というミクロの視点の作品なんですが、「これは大島という1人の人間を通して見ている現実ですよ」っていうのをちゃんと観客に伝えた方がいいだろうと思いました。まるで客観的事実かのように見せるよりも、フィルターとして僕がちゃんと入っているという事を表明した方が、見る人にとってフェアだろうと思ったんです。
Q:だから作中のナレーションも監督自身が読まれているんですね。
大島:そうです。小川淳也の僕が見てない部分だって沢山あるはずですから。