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今撮らなければ消えてしまうものがそこにある『もち』小松真弓監督&及川卓也プロデューサー【Director’s Interview Vol.67】

今撮らなければ消えてしまうものがそこにある『もち』小松真弓監督&及川卓也プロデューサー【Director’s Interview Vol.67】

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撮ったのは演技ではなく本人の声



Q:後世に残す映像という意味では、ドキュメンタリーにする手法もあったかと思うのですが、あえてフィクションにしたのはどういった意図があるのでしょうか


小松:本当にたくさんの方に取材をして、色んな話を聞くことができたのですが、皆さんそれぞれ持っているお話が違うわけです。先ほど及川さんも言っていましたが、これは一関だけの話ではなく日本全体の話だなとも感じました。それで、これは全てひっくるめて一つのお話にした方がいいなと思ったんです。それがフィクションにした大きな要因ですね。


Q:フィクションといいつつも、プロの役者が演技をしているのではなく、実際の一関の方々が出演されているわけですが、とても自然で違和感がなく驚きました。撮影にあたりどのように演出されていったのでしょうか。


小松:取材の時に私と会話していたことを、もう一度カメラの前でやってもらったんです。


例えば、ユナちゃんとおじいちゃんが河原で話している、結構長いシーンがあるのですが、ユナちゃんには脚本を渡して、おじいちゃんには渡してないんです。とりあえずみんなで河原に行って、撮影前に世間話の様に、おじいちゃんに「あの、杵が男で臼が女だって話しなんだっけ?」と聞いて「わすれたのか?」と言われながら、もちの話を思い出しておいてもらう。「じゃあユナちゃんにも教えてあげようよ」とユナちゃんと3人で話している感じから、私がそっとカメラ前から抜けていく感じで撮りました。




カメラが1台しか用意できなかったため、いくつかアングルを変えて撮りたい時は「え、ちょっとわからなかった、もう一回教えて?」とかいろいろ言いながら、カメラがアングル決めるまで時間稼ぎして、その場の空気の流れを自然に作っておくという様な感じでした。


その一方でユナちゃんには、「おばあちゃんのことはどう思っているのか」など、いくつかおじいちゃんに聞いてほしいことを用意しつつ、話の流れの良いタイミングで聞く様にしてもらいました。そうして二人の自然な会話を引き出していったんです。


また、「ユナに好きな男の子がいるか聞いてみてよ」って、脚本には無いことを、おじいちゃんに言ってもらうんです。そしたら当然、ユナちゃんは驚き、恥ずかしさを隠せないので、かなり自然な表情が撮れましたね。


Q:なるほど、それを聞いて納得しました。みなさん素人なのに、演技があまりに自然で不思議だったんです。


小松:でもユナちゃんは当時中学生で、思春期女子の真っ盛りなわけです。一度、私が撮影に頭から入れなくて、カメラマンの広川泰士さんだけだった時は、ずっと下を向いてて使える画がほとんど撮れなかったという(笑)。それくらい繊細なんですね。


また、ユナちゃんは本が好きらしくて、学校の図書館の本を相当読んだらしいんです。図書館には一冊読んだらシールを一つ貼るというボードがあるのですが、ユナちゃんのところには一つもシールが貼られて無い。お友達のシホちゃんが一番になっていたんです。あとで聞いたら、あえて貼らなかったと。そういう子なんですよ。すごく人の気持ちも読めるし、自分の気持ちもちゃんと言える。だから演出的なことも、彼女だったから委ねられた部分はありますよね。



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