脚本を読んだとき、自然と涙があふれてきた
Q:草彅さんご自身は、どんなものから役のインスピレーションを得ていったのでしょう?
草彅:僕がいままで生きてきた中でいろんなものを見てきたし、トランスジェンダーの方々とお仕事させていただいたこともあります。自分の人生の中から何かしら拾っているとは思いますね。
あとは、内田監督が持っている空気感。ちょっとした言葉や真剣な眼差しから、「この人があの物語を書いたんだな、そしてその人が撮ってくれているんだな」と思えて、自然と役に入らせてくれるというか。一果役の服部樹咲ちゃんもすごく頑張っていて、彼女の力で凪沙にしてもらえた感覚もありますね。
Q:凪沙に母性が芽生えていく過程も、素晴らしかったです。
草彅:脚本を読んだときに、僕は母親の気持ちがわからないけどなぜか涙があふれてきて、この気持ちは何だろう、これが“愛おしさ”というものなのか、という不思議な感覚になったんです。
凪沙と一果の関係性が、この映画の核になると感じたので、樹咲ちゃんの目をしっかり見たり、彼女のことを守りたいな、愛おしいなと思うように努めました。といっても、彼女は本当にかわいいから(笑)、自然と感情が芽生えていったんですよね。今回はほぼ順撮りでできたこともあって、樹咲ちゃんに“母性”を呼び起こしてもらえた気がします。
Q:このチームでなければ成立しなかった、という感覚ですね。
草彅:奇跡的というか、自分が意図してやってもできないような演技が出せたんです。一果との関係性もそうだし、映画自体が全てリンクしているような……。いい偶然が重なって、自分はいますごい作品に出てるな、という感覚がありました。
いつも、最新作が代表作だと言ってるし、自分自身もそう思っているんですが、今回はことさら強く感じましたね。
Q:完成した作品をご覧になった際、席から立てなかったと伺いました。
草彅:最後まで観て、とてつもない幸福感で満たされて、それが余韻に変わっていったんですよね。ハッピーな気持ちがいい塩梅で出てきて、それで立てなくなってしまいました。
この映画を観て改めて、人を思いやる気持ちとか、他者を認めてあげることとか、そしてまた自分自身を認めて許してあげる――そういうことが、人生をポジティブにするし、ものすごく大事なんだなって思うんです。
凪沙は、どこかずっと自分自身を許せないところがあって、でも一果によって少しずつ自分を許せて、肯定できたんじゃないかな。でもそれって、誰しもに置き換えることができますよね。
人を認めてあげたり許してあげるということが、この作品の一番のテーマであり、優しさなんじゃないかと思っています。