日本の映画監督の印税
Q:いわゆる「いい映画だけど当たらない」作品は、「都市型」とも呼ばれますよね。映画館にアクセスがしやすい都市エリアだと満席になるけど、地方だと集客に苦しんでしまう。
内田:都市型ね……。僕もよく言われますよ。配給サイドがもう地方をあきらめてるだろうな、っていうケースもありますしね。
地方に住んでいる方々の、潜在的に「面白い映画だったらメジャーとかインディペンデント関係なく観たい」っていう気持ちに火をつけるというか、あぶり出すための作業が僕たち作り手にも宣伝サイドにもまだまだ足りてないんじゃないかとは思います。
若い子だとNetflixとかを通して、出演者も監督も知らないけどとりあえず観てみる、という感覚が根付きつつあるなとは思うんですが、映画がそこに追いつけていない感覚はありますね。
でも、「都市型だね」で終わるのは、夢がなさすぎるじゃないですか。僕たちが作ってるのは、映画っていう夢が詰まったものなんだから。たとえばアメリカの地方都市は日本以上にアート映画を観ないと思いますが、A24は、そこを掘って成功しているわけですし、やりようは絶対にあると思うんです。
Q:おっしゃる通り、何とかしたいですよね。
内田:あとこれは直接的な解決案ではないのですが、公開時に配信契約とパッケージ契約でビジネスとして成立させる、というパターンも近年では生まれています。
これまでは毎日映画館を満席にしないと回収出来なかったものが、そうではなくなる。若い監督にとっては、新しいチャンスができたのは大きいかなとは思います。
まぁ、ヒットしても僕たちには一銭も入らないんですけどね(笑)。
Q:えっ……そうなんですか?
内田:これ、意外と知られていないですよね。日本の映画監督の印税は1.75%で、最低基準なんですよ。しかも興行収入からの印税はゼロで、二次(DVDや配信等)からしか発生しない。この情報を何人が知ってるんだろう? 僕自身、海外の映画祭に参加するようになって、海外との違いを初めて知りました。
ここをもう少し上げて世界と同じにしてくれるだけで、食っていける監督が増えると思うんですけどね……。
Q:国内の映画監督の多くがバイトで食いつないでいると聞いて、衝撃でしたが、そういった事情があるのですね。
内田:僕たち映画監督は刷り込みのように、「映画は貧乏が当たり前・お金のことは考えちゃダメ・演出だけやってろ」と言われてきましたが、それはもういいじゃないかと思うわけです。サバイブの仕方をちゃんと考えていかないといけない。
僕自身もお金に対して無知だったので、最近は起業家の方たちとお話しする機会を設けているんですが、彼らは口をそろえて「映画界って面白いね」と言います。この業界って、ずっと変わっていないんですよね。他の業界から置き去りにされている。
結果、一部の人だけが儲けて、クリエイターが貧乏暮らしを強いられる。若い監督は次々出てくるけど、ほとんどが2〜3年で消えていく。メジャー映画は、一部の大物監督たちが持ち回りのような形で製作されていく。やるせないですよね。若者が、映画監督に夢を抱けない状態ですから。
助成金も少ないですしね。こういう環境だと、「儲からないけどいい映画を作ろう」とはなかなかなれない。フランスとかだともっと国のバックアップがあるから、商業だけじゃなくて文化的に意義のある作品を作れる。韓国も、日本よりはるかに手厚いと聞いています。アジアの中でも、日本は完全に諸国を追う側になってしまった。
もう、世界における日本映画のポジションも一時期に比べたらまるで見向きもされないし、日本の映画界における監督の立ち位置も、落ちるところまで落ちていると思います。一回リセットしないといけない。