草彅剛と服部樹咲への異なる演出
Q:今回も濃厚なキャラクターがたくさん出てきますが、中でも草彅さんと服部さんがずば抜けて凄くて圧倒されます。お二人への演出はどのようにされたのでしょうか。
内田:草彅さんは受けるタイプの役者さんだと思うので、空間に同化してもらうようにしました。服部さん演じる一果をポンと草彅さんの前に置くと、彼が状況を受けてどんどん役に同化していくんです。その作戦で演出しましたね。
一方で一果に関してはかなり作り込みました。リハーサルもかなりやりましたし、服部さんは演技も初めての素人なのですが、草彅さんに何かを与えなければいけない側なので、相当大変だったと思います。感情を爆発させる練習も何度もしましたよ。実はこの映画、現場でもかなりアドリブが多いんです。
Q:そうなんですか。
内田:現場でシーンを僕が勝手に作って、そこに二人をポンと置くと勝手に化学作用が起こる。しっかり役作りした一果を受けて草彅さんが反応する。こうなると、どんなシチュエーションでも、二人のアドリブで成立してしまう。撮影後半はそうやって撮ることが多かったですね。それがいい方向に出たのかなと思います。
Q:草彅さんは何でも対応できそうですが、服部さんは演技初めてで撮影当時はまだ中学一年生ですよね。
内田:そうですね。中一でした。彼女は撮影中に5センチ背が伸びましたからね。成長期って、尋常じゃないですよね(笑)。また、撮影を進めて一か月ぐらいすると、途中からどんどん女優になっていくんです。それを逐次ストップさせる作業をしてましたね。
Q:ストップさせるとは?
内田:いわゆる演じ始めちゃうんです。演じ始めると、草彅さんが受けなくなってくる。だから、演じなくていいんです。純粋な気持ちのまま、そこにいるだけでいいんですが、これが結構難しくて、どうしても演じてしまう。「とりあえず好きなケーキのことでも考えてて」と言って、演出とは真逆の考え方で接していましたね。
Q:これはスターの宿命だと思いますが、僕たちはあまりに草彅剛という人に慣れ親しんでいるから、映画を観ても最初はどうしても草彅剛にしか見えなんです。草彅くんが演じてるんだなって見てるんですが、途中から凪沙にしか見えなくなってくる。すごいを通り越して、もはや恐ろしいくらいでした。
内田:現場でもありましたよ、やっぱり芝居に見入っちゃうんですよね。ぱっと後ろを見ると、スタッフが皆ボロボロ泣いてることもよくありました。あれだけスタッフが泣く現場って、これまであまりないですね。泣かせる映画を作ろうとは1ミリも思ってないのですが、そんな風に感情が伝播したのは僕も初めてでしたね。