映画に恩返しをしたい
Q:今回の音楽は渋谷慶一郎さんでしたが、今回ご一緒されたきっかけは?
内田:プロデュースサイドの方から提案いただいたのがきっかけですね。結果、思った以上に良かったです。制作中は渋谷さんとものすごくディスカッションして、それはそれで大変でしたが、映画音楽っぽくというよりもフラットな感じで音をつけてくれたのが、すごく良くて。今回、渋谷さんとは本当にいい出会いをしたなと思っています。
Q:今回はかなり完成度が高く、やり切った感じも見受けられますが、今後はどういう映画を撮っていきたいですか?
内田:とにかく映画を撮り続けていきたいなと思っています。小さい頃に、ブラジルから帰国して友達もいない時、自分を救ってくれたのは映画なんです。その映画に恩返しをしたい気持ちが強いですね。また、最近はPVやCMなど“映像”というものに興味を持っている監督さんも多いですが、僕はそっちに全然興味なくて、とにかくやりたいのは映画。映画が撮れなくなったら、以前やっていた執筆業に戻るかもしれませんね。
最近は、配信という新たな手法もありますし、それは自分の中でもテーマにしているので、それを踏まえて映画を撮り続けたいですね。そこに『ミッドナイトスワン』のような多様性のある映画を撮って、社会自体も多様性があるようになってほしいなと。そのためにもこの映画はヒットしてほしいと強く願っています。
Q:今回扱ったテーマは非常にセンシティブですが、臆せずエンターテイメントとして描き切っている感じも受けました。
内田:「トランスジェンダー」って、今は色々とニュースになったり社会問題なども絡んでくることが多いのですが、いつかはそういう取り上げ方をされない社会になると良いなと思っています。
今回の映画にも、真田怜臣さんというトランスジェンダーの方がまさにその役で出演されています。さらにはトランスジェンダーの方々がボランティアに応募してくれたり、エキストラとしても何十人という方々に出演いただいたり、現場が本当に良い雰囲気に包まれていました。今後は映画に出てきたとしても殊更説明することなく、普通の役で出てきて普通に存在しているようになれば良いなと。
社会問題にフィーチャーする映画となると、どうしても観る人が少なくなってしまうので、その結果、そのことについて考える人が減っても良くない。特別扱いすることなくもっとオープンになっていけばいいなと思います。
Q:最後に、これから作品をご覧になる方々にメッセージをお願いします。
内田:もし出来るなら、二人で観に行っていただけると嬉しいです。こういう内容の映画って一人で観にいきがちなのですが、大作映画のようにイベントに行くような気分で、二人で来てもらいたいですね。そして観た後は色々と話してもらいたいです。
日本映画界って本当に追い込まれるところまで追い込まれていると思うんです。資本力があって有名人がいっぱい出てて、宣伝費も多い映画も面白いと思いますが、もう少し映画も多様的になれば良いなと。僕はそういう映画を撮りたい。
ただこれも皆さんの応援が無くなると出来なくなってしまいます。今回は草彅さんという大スターに出ていただいて、このテーマで映画を撮ることができたのですが、もしこういう映画がヒットしないのであれば、僕もやり方を考える必要がありますね。でも、チャレンジは続けていきたいと思います。
『ミッドナイトスワン』を今すぐ予約する↓
監督・脚本:内田英治
ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。週刊プレイボーイ記者を経て99年「教習所物語」(TBS)で脚本家デビュー。14年「グレイトフルデッド」はゆうばり国際ファンタスティック映画祭、ブリュッセル・ファンタスティック映画祭(ベルギー)など多くの主要映画祭で評価され、つづく16年「下衆の愛」はテアトル新宿でスマッシュヒットを記録。東京国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭(オランダ)をはじめ、世界30以上の映画祭にて上映。イギリス、ドイツ、香港、シンガポールなどで配給もされた。近年はNETFLIX「全裸監督」の脚本・監督を手がけた。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『ミッドナイトスワン』
9月25日(金)全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
(c)2020 Midnight Swan Film Partners
公式サイト:midnightswan-movie.com