役者には考えてほしい。そのために監督は動く
Q:今回は、二宮和也さんをはじめ、初タッグとなる役者さんも多くいらっしゃいますが、どのような経緯でキャスティングされたのでしょう?
中野:家族4人の雰囲気を作るのが、全てだったと思うんです。この家族って一見変わっているけど、芯の部分では泥臭いくらい真っ当な家族なんですよね。親が子のために動き、子が親のために動くという愛情が、ちゃんと流れている。
その中心になる次男の政志は、ちょっといい加減なところもあるんだけれど、とにかく人を惹きつける魅力がないといけなかった。やっぱり役の雰囲気って、演じる役者ご本人がある程度持っていないと難しいと思うんです。その点、二宮さんだったら間違いなくできると思ってお願いしました。
二宮さんが決定してからは、彼を中心に「妻夫木さんだったらお兄ちゃん役がハマりそう」とか、バランスをみてキャスティングしていきました。
Q:中野監督は初期作から、役者への「家族に見えるためへのアプローチ」を徹底されていますよね。役者陣に一緒に料理を作ってもらったり、手紙やメールのやりとりをしてもらったり……。今回は、モデルとなった浅田家の皆さんと、キャストが対面する機会を設けたとお聞きしました。
中野:今回は実在の家族を描くので、ご本人たちが住んでいる町にキャストを連れていくことだけはやらせてほしい、とお願いして、みんなで三重県の津市に行きました。
日本では映画を作る上で、俳優部の事前準備にそれほど重点を置かない気がしていて、本当はもっともっと撮影前に時間をかけたいのに。ただ、そんな中でも皆さんが理解を示してくれて、実現することができました。やっぱり、撮影前にそういう体験するかしないかで、役者の演技が違ってくると僕は思うんです。
Q:その部分、ぜひ詳しくお聞きしたいです。
中野:本作に限らず、役者さんには「考えて」ほしいんです。脚本を読み込んで、役や物語について考え抜いて、そのうえで思ったことを自由に表現してほしい。彼らがそれをやりやすいように動くのが、監督の仕事だと思っています。
ちゃんと準備してあげれば間違わないし、齟齬も発生しない。役者が思っていることとこっちの意図がずれずにハマると、すごく気持ちがいいしスムーズなんですよね。
もちろん細かい部分は色々指摘したり相談したりはしますが(笑)、土台がずれないというのは本当に大きいと思います。