念願だった、菅田将暉とのタッグ
Q:なるほど。だから、役者陣が役として生き生きとスクリーンの中に息づいていくんですね。政志が被災地で出会うボランティアの青年を演じた菅田将暉さんも、びっくりするほど画面に溶け込んでいる。中野監督は、『そこのみにて光輝く』(14)を観て以来、菅田さんと組みたいと思っていたとお聞きしました。
中野:今回は別にモノマネをしてもらうつもりはなかったけど、実際の浅田家の皆さんとキャストがなんとなく似ているんですよね。ただ、菅田くんに演じてもらった小野は、ご本人と全く違うんですよ。でも、ご本人とのズレを感じさせない。
この作品の前って、菅田くんはドラマ『3年A組 今から皆さんは、人質です』(19)をやっていたんですよ。だから、衣装合わせで会ったときにすごく怖い顔をしていて、「すみません、いま『3年A組~』をやっていて……」って(笑)。それが、いざこっちの撮影が始まったら、あんなにナイーブな演技を見せてくれた。素晴らしいですよね。
Q:そうだったんですね!
中野:僕からも、演技の助けになるように色々動きました。じつは菅田くんにも、撮影前に演じるご本人に会ってもらっているんです。やっぱりご本人が感じていた当時の思いとか、色々なエピソードを聞いていると、役作りに生きてくるんだなと感じました。
写真洗浄に関しても、事前に講座を開きました。実際に活動を行っている方をお招きして、キャストたちに泥だらけの写真を洗浄してもらいました。
Q:いまのお話もそうですが、中野監督は「演出論」も「アプローチ」も、もちろん「テーマ」も初志貫徹されているイメージがあります。昨今なかなか珍しいタイプの映画監督では?と思うのですが……。
中野:どうですかね……。一言で言うと、きっとまだ映画界に擦れていないんですよ(苦笑)。たくさん撮るようになったら、揉まれてカラーを貫けなくなってくるかもしれない(笑)。
Q:そうならないように、日々抗うというか……。
中野:そうですね。そうありたいと思ってはいますが。ただ、さっきお話ししたようなアプローチにしても、どれだけ演技に生きてくるかはわからないけど、必要なことだとは信じています。
あと、「こっちはこれくらい考えてるんだぞ」を見せる意味合いもありますね。きっと役者さんからしたら、相当プレッシャーだったと思いますよ(笑)。