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賞金稼ぎボバ・フェットの歩み【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.50】

賞金稼ぎボバ・フェットの歩み【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.50】


映画デビュー、そして起源への回帰





 1980年、『帝国の逆襲』が公開してとうとうボバ・フェットは映画本編へのデビューを果たす。セリフは少ないながらも、前述のような存在感を放ち、冷凍されたハン・ソロを連れ去ってしまうことで本作のエンディングの暗さに一役買う。やっていることは本来憎まれ役の悪党なのだが、顔の見えないミステリアスさや無駄のない所作(ゆっくり歩く動作は演者のジェレミー・ブロックがクリント・イーストウッドの「名無しの男」を参考にしたという)も相まって、憎いという気持ちなどよりもかっこいいというのが先に来てしまう。それはもちろん、最終的にハン・ソロが助かるというのをなんとなく事前に知っている世代としての感想に過ぎないかもしれないが。


 出来上がった衣装は、ヘルメット、アーマー、ガントレット、ジェットパックといったほとんどの部分が灰色がかったグリーンに塗られ、一連のプリプロ版で見られたようなカラフルな配色から控えめな色調におさえられた。ダース・ヴェイダーの横に並んだ際に、色数が多すぎるとさすがに雰囲気が浮きすぎるという懸念からだろうか、いずれにせよこだわり抜かれた仕上がりはとても渋くてかっこいい。色がついているようで同時に暗い灰色のイメージは、彼がヴェイダーほど邪悪でもなければルークのような善人でもないという中間的なキャラクターを表しており、それは雇い主次第で立ち位置の変わる賞金稼ぎにそのまま繋がる(明らかに彼はワルだが)。


 『エピソードVI/ジェダイの帰還』は『帝国の逆襲』の一年後にあたり、ボバは犯罪王ジャバ・ザ・ハットのもとに冷凍された賞金首を送り届けたまま、ギャングスタの根城に用心棒として居座っていたことがわかる。アーマーの色や装備の一部は前作とは異なっており、ガントレットは両腕とも赤に、ジェットパックは青と黄色(プリプロ版の配色と同じ)、ヘルメットやアーマーの緑色も若干ではあるが彩度が変わっている。この変更には諸説あり、前作の衣装の一部が紛失した(盗難の気配も含めて語られることが多い)、前作からの時間の経過を表しているといった理由が挙げられるが、紛失が本当としてもあそこまで全体的に印象を変える必要はないように思える(アーマーのみならずケープやライフルも違うのだ)。これは個人的な推測だが、あえてわかりやすく変えているのは、劇中での時間の経過に加え、ボバが配置される背景の変化のためでもあるのではないか。ヴェイダーやトルーパーたちと並んでいた前作に対し、今回はジャバの宮殿というやや薄暗いところで、ジャバをはじめ様々なクリーチャーと一緒に映るため、色合いを調整し、プリプロの過程にあった装備の配色も再利用したとか。ともあれ色合いとしてはこの『ジェダイの帰還』版がいちばん好きである。特に青空の下でヒーローたちと対峙するシーンでの見栄えがとてもいい。


 ジャバの帆船のようなセールバージからついにジェットパックで飛び立ったボバは、デザートスキッフの上にいるルークに襲いかかる。前作でのちょっとした銃撃戦の続きというわけだが、ジェダイとして強く成長したルークはなかなかに手強く、そうこうするうちにハンにジェットパックを叩かれたことでこれが誤作動し、あらぬ方向に飛ばされた挙句、巨大な蟻地獄を思わせる巣穴で待ち構える怪物サルラックに飲み込まれてしまう。あっけない最期だが、個人的にはこの善戦を予感させながらも噛ませ犬のように退場する感じが結構好きである。


 のちにルーカスは、それほど重視していなかったこのキャラクターが大きな人気を得たのを受けて、劇中での扱いを後悔し、1997年の特別篇ではサルラックから脱出するシーンを一瞬だけ追加しようとしたそうだが、周囲の反対もあって断念し、『新たなる希望』でジャバがハンに借金を取り立てにやってくるシーンでボバの姿を追加するにとどめた。脱出に反対した人々にぼくも賛成である。ボバはああいうふうに退場するところがいいのだ(少なくとも映画においては)。


 その代わり、ルーカスは前日譚にあたるプリクエル三部作にて、ボバ・フェットのルーツを描いて見せた。『エピソードII/クローンの攻撃』では、ストームトルーパーの前身となる共和国軍の兵士たちが賞金稼ぎジャンゴ・フェットのクローンであり、ボバはジャンゴが息子として育てた特注のクローンだったことが明らかになるのだ。ボバ自身は少年の姿で登場するが、複製元のジャンゴを通してのちのボバの素顔も同時に説明しており、また彼と同じ遺伝子を持った無数の兵士たちの存在は、ボバ・フェットの最初期の設定「スーパートルーパー」を思い出させもする。彼は再び兵士たちと結びつけられ、特別なクローンとして「父親」の後を継いで賞金稼ぎになったのである。


 誰も重要視していなかったのに予想外の発展を遂げたボバ・フェット。同じスタイルの装甲をまとった戦士を描いたドラマシリーズ『マンダロリアン』にまで繋がっていくなど予想もされなかっただろう。しかし、ジョンストンはじめクリエイターたちが取り組んだ仕事は確かに最新のドラマにまで繋がっているのだ。覚えておきたいのは、これほどの人気キャラになるとは考えられていない時点でも、熱心に制作されたこと。これはぼくの想像に過ぎないが、必要に迫られたのではなく自ずとそうしたいと感じてこだわったからこそ、素晴らしいキャラクターが出来上がったのではないだろうか。たったひとりの、ヒーローでも悪役でもない、ちょっとした脇役を作るためにこんなに手間がかかっている。それ自体をなんだか幸福に感じる。



イラスト・文: 川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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