Index
始まりは上級ストームトルーパー
前々回に続き、『スター・ウォーズ エピソードV/帝国の逆襲』の40周年を記念して語らせてもらいたい。この作品の40周年というのは、つまりこの作品から登場したキャラクターやモチーフ、賢者ヨーダやギャンブラーのランド・カルリジアン、雪原を闊歩する歩行兵器AT-ATのスクリーンデビューからも40年ということになるが、自分が特に強い思い入れを持つのは賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)のボバ・フェットである。
暗黒卿ダース・ヴェイダーに雇われた賞金稼ぎで、ライバルたちを出し抜いてミレニアム・ファルコン号の追跡に成功する彼は、ダース・ヴェイダーの横に無言で控えていながら異様な存在感を放つキャラクターだ。体のあちこちに装備があり、すぐに出番はないものの背中にはジェットパックも背負っている。なんといってもヘルメットや装甲服の上に走る無数の傷が、彼を歴戦の戦士として際立たせている。真っ黒で光沢のあるヴェイダーや、真っ白で無機質なストームトルーパーたちと並ぶことで、汚れてくたびれたその姿はたくさんの危機をかいくぐってきたかのような、油断できない雰囲気を漂わせるのだ。多くのファンと同様、ぼくもひと目見たときから彼に夢中である。
しかし、当然だがこの装甲服は最初から傷だらけだったわけではなく、緑色だったわけでもない。おまけに彼は最初から賞金稼ぎではなかった。このキャラクターの起源に迫るには、シリーズ第1作『エピソードVI/新たなる希望』公開の翌年、1978年まで遡ることになる。この年にボバ・フェットは誕生し、試行錯誤の末にお馴染みの姿にまで発展したわけだが、ここではその軌跡を簡単にまとめたいと思う。
のちにボバ・フェットとなるキャラクターのイメージは、当初帝国軍の主力兵士たるストームトルーパーの上級種、スーパートルーパーとして構想されていた。第1作で強烈な印象を与えた白い兵士たちの指揮官として、ダース・ヴェイダーに次ぐ新たな悪役になるはずだった。すでに真っ黒なヴェイダーと真っ白なトルーパーたちによって不吉なコントラストが生まれていたが、やられ役の兵士たちよりは手強い白い悪役を暗黒卿と並べようという意図だったのかもしれない。
キャラクターのデザインには、1作目に引き続き作品世界のヴィジュアル化に取り組んだコンセプト・アーティストのラルフ・マクォーリーやプロダクション・デザイナーのノーマン・レイノルズ、衣装デザイナーのジョン・モロ、そしてこの連載でも何度か取り上げているジョー・ジョンストンなどが携わった。マクォーリーのスケッチを見ると、ストームトルーパーからイメージが発展していったというのがわかりやすい。鉄兜とガスマスクを掛け合わせたかのようなトルーパー的な顔から、日本の兜で言う前立てのようなものをつけたバージョン(白いのも手伝ってとてもガンダムっぽい)などがあり、新しいトルーパーであるのと同時に、どこか白いヴェイダーとしてのイメージも見え隠れする。やがて頭部の形がシンプルになり、前立てだったものは頭の片側から突き出した一本のアンテナへと落ち着く。マクォーリー・コンセプト版としてよく知られている全身像では、アーマーは最小限、身体のほとんどは白いジャンプスーツに包まれていてスマートだ。頭部はすでにのちのボバ・フェットとほとんど変わらず、このイメージは度々フィギュアになるほど人気がある。
一方でジョンストンは実際に衣装を制作する関係もあってか、装備の具体的なディテールや機能、またそれらをどのように分割して身に着けるのかというアイデアに心血を注いでいる。特にジェットパックのスケッチは多く、普段は収納されているジェットブースターが両側に展開するものや、飛行はせず背中からロケット弾やケーブルフックを発射させるだけのものなど、のちに監督することになる『ロケッティア』の源流とも言えるこだわりを感じる。
かくしての衣装は完成し、スクリーンテストの映像は今日でも残っている。ジャンプスーツを含め全身が白である以外は(ブラスターライフルなどに若干の違いはあるものの)、ほとんど映画に登場するのと同じ形がすでに完成している。肩からケープを下げているところまで同じである(この時点では1作目の関連商品であるブランケットが使われており、SWロゴやキャラクターなどの柄がプリントされていた)。腕のガントレットと背中のジェットパックとがチューブで接続していて、操作するとジェットパックのノズルからスモークが吹き出すギミックまであり出来が細かい。しかし、これで完成ではなかった。スクリーンテストの後、ジョージ・ルーカスの提言によりこのキャラクターはスーパートルーパーからバウンティ・ハンターへと変更されることになり、ジョンストンはこれを一匹狼の賞金稼ぎに見せるために塗り直すという作業に取りかかった。