直木賞を受賞した桜木紫乃の小説「ホテルローヤル」。映画化を手がけたのは『百円の恋』(14)「全裸監督」(19)『アンダードッグ』(20)と、昨今の日本映画界の最前線を走り抜ける武正晴監督。桜木紫乃がこれまで描いてきた北海道と人間模様、そしてその繊細で丁寧な筆致を武監督はどう捉えて映像化したのか?原作モノを映画化するとはどういうことなのか?監督に話を伺った。
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オムニバスを1本化
Q:最初に原作を読んだ感じはいかがでしたか?
武:面白かったですよ。自分の好きな感じの小説でしたね。
Q:脚本の清水友佳子さんとは、どのように脚色を進められたのですか。
武:清水さんと一緒に構成を考えたのですが、原作通りにするとオムニバスになってしまうので、まずはどう一本化するかというところから始めました。「えっち屋」という章に書かれている主人公・雅代を軸にすれば、ホテルの一家の話になるので、そこを構成の中心に据えました。原作には直接書かれていない行間も読み取りつつ、一本化していく。なかなか面白い作業でした。
Q:原作はオムニバスですが、エピソードの取捨選択は難しかったのではないですか。
武:エピソードは全部入れたかったんですけどね。ホテルローヤルに来ない人の話が一つだけあって、それだけは脚本に入れるのが難しかったです。
Q:「本日開店」の章ですね。
武:そう「本日開店」。あの話に出てくる女性の感じが好きでして、すごくエロティシズム溢れるシーンが撮れるなと思ったんですけど、ちょっと入らなかったですね。
Q:原作の「せんせぇ」の章でも、基本的にはホテルは出てこないですよね。
武:ただ、原作では別の章で「せんせぇ」の登場人物達(女子高生と教師)がホテルローヤルと関わってくるんです。物語として結構決定的な関わり方をするので、映画ではそこの部分を広げて脚本に落とし込みました。この女子高生はぜひ描いてみたかったし、小説に書かれている設定を生かしつつも、新たに作り込む部分もありましたね。
こういう改変は、原作者によっては嫌がる人もいるのですが、桜木紫乃さんは自由を与えてくれました。それがなければ成立しない脚本でしたね。
Q:桜木さんからは何もリクエストはなかったんですか?
武:「ご自由にやってくださいと」。本当にありがたいことですよ。