アカデミー賞授賞式で最後に発表される作品賞、授賞してオスカー像を手にするのは、その作品のプロデューサーだ。映画監督の仕事は何となく想像がつくが、映画のプロデューサーって、実際どんなことをしているのか?
今回のCINEMORE ACADEMYでは、日本映画におけるプロデューサーの役割にフォーカス。プロデューサーは何を思い、そしてどうやって映画を作っているのか?現在絶賛公開中の映画『おらおらでひとりいぐも』を題材に、竹内文恵氏(アスミック・エース)、西ヶ谷寿一氏(東京テアトル)、西宮由貴氏(東京テアトル)の3名のプロデューサーに話を伺った。
その仕事内容から、監督・俳優・スタッフとの関係、そして普段なかなか聞けない予算の話まで、約12,000字に渡るプロデューサーたちの映画制作秘話。かなりの長文だがぜひ最後までお楽しみいただきたい。
Index
- 映像化したい原作と、映像化出来る監督
- 難しい原作を脚本化する沖田監督の手腕
- なぜ沖田修一だったのか?
- 日本映画の製作費
- 歌から湿布まで、徹底的に準備する女優・田中裕子
- 『横道世之介』のスタッフでやりたかった
- プロデューサーの役割とは
映像化したい原作と、映像化出来る監督
Q:映画『おらおらでひとりいぐも』は、何からスタートしたのでしょうか?映画が作られる最初のきっかけを教えてください。
竹内:原作をお借りする映画の場合は、まず最初に、映像化したら楽しいに違いないという原作があり、その映像化をこの監督にお願いしてみたらどうだろうと、相談するところから映画作りは始まります。
今回の場合は、原作の「おらおらでひとりいぐも」に書かれていた、桃子さんという人物像が、とにかく自分に刺さったんです。でもそれをうまく映像化できる監督が存在しない限りは、映画は出来ない。桃子さんの毎日を、沖田修一監督の世界観でぜひ見てみたい!となったのが最初でした。当時は、芥川賞と文藝賞のW受賞で、この本がすごく話題になっていたので、急いで出版元の河出書房新社さんに駆け込みました。ちょうど映画館で『モリのいる場所』(18)が上映されるちょっと前だったと思います。
ご提案をした時には、やはり、いくつか映像化のお問い合わせが入っていたのですが、幸運にも映画化を進める運びとなりました。
Q:普段本を読まれる時も、映画化を念頭に置かれるのでしょうか。
竹内:どうしても映像化を念頭に読んじゃいますね。
西ヶ谷:そうですね。映画を作っていく過程でもいろんな種類の参考資料を読む必要があるので、読書は何かしら映画化できるかを踏まえて読んでいます。
竹内:映画化したとして、劇場で公開される2~3年後のみんなの気分に何かマッチするものがあるだろうかと、読みながら色々思ってしまいます。
Q:竹内さんはアスミック・エース所属、西ヶ谷さんと西宮さんは東京テアトル所属で、皆さん本作のプロデューサーですが、今回はそれぞれどういった立ち位置だったのでしょうか?
竹内:私は沖田監督と面識がなかったので、沖田監督の商業デビュー作からご一緒されている、西ヶ谷さんと西宮さんに相談したのが、この座組みのきっかけです。プロデューサーの立ち位置は作品によって様々ですが、原作側とのやり取りや製作委員会の組成を私が担当して、お二人には監督との意思疎通をメインに、スタッフィングや撮影など制作まわりをお願いしました。
プロデューサー:竹内文恵氏
西ヶ谷:プロデューサーの立ち位置って様々で、例えば東京テアトルが製作と配給をやるときは、今回の竹内さんの役割を僕らがやることもあります。今回は監督と一緒に動くことを中心に、現場周りを私と西宮で担当しました。中でも西宮はキャスティングを中心に動いてましたね。また、今回も脚本は沖田監督が担当されたのですが、出来た脚本は僕と西宮のところに最初に来るので、監督とやり取りしつつ、それを竹内さんに渡すといったやり方をしていました。
Q:同じプロデューサーといっても、やることは多岐に渡るんですね。少し話が戻るのですが、先ほど竹内さんは、映画化を決めたポイントとして、主人公の気持ちが刺さったとおっしゃいましたが、原作を選ぶポイントって何かありますか。ちなみにアニメの『四畳半神話大系』(10)も竹内さんがプロデューサーですが、あの原作を持ってこられたのも竹内さんだったのでしょうか。
竹内:そうですね。あのときは森見登美彦さんの小説「四畳半神話大系」の世界を、湯浅政明監督のイマジネーションで観てみたかった。先ほども言いましたが、この原作をこの監督で映像化したら。というのが大体のきっかけですね。
西ヶ谷:実はその実写化を僕がやろうとした時があって、それで竹内さんと繋がったんです。
Q:『四畳半神話大系』を実写化する話があったんですか!?
西ヶ谷:はい。結局実現できず、アニメのDVD特典のメイキングを作ることになって、京都に行ったりしました。懐かしいですね。
竹内:そうですね。あの時から何かお二人と企画をご一緒したいというのがあり、これまで色々と話していまして、今回初めて成就したって感じですね。
Q:そんなお話があったんですね…。しかし『四畳半神話大系』も『おらおらでひとりいぐも』も映像化するのが難しそうな原作ですよね。
竹内:監督にはすごく大変なご相談していると思いつつも、でもやっぱり一番は、その映画が公開されるであろう年に、観た人が新しい価値観や新たな感情を発見できればと思っているんです。原作があって、そこに映像表現として色々な幅が見えそうだなと思った時に、映像化したくなりますね。