大真面目に作っているからこそおもしろい
好きなシーンとしてはもうひとつ、火星人スパイガールの死を受けて火星人が地球に攻勢をしかけ、各地の主要都市や象徴的なモニュメントが破壊される中のワンシーン。円盤が巨大なボールを転がしてイースター島のモアイ像でボウリングをしたり、火星人がタージマハルの前で記念撮影しようとしたタイミングで仲間の円盤がそれを破壊してしまったり、ユーモラスな破壊が印象的だが、特にラシュモア山に彫られた大統領の顔を、円盤がレーザーで火星人の顔に作り変えてしまうところがお気に入りだ。光線がちょこちょこちょこっとなぞっただけでモールドの細かい彫刻が出来上がるのも嘘っぽく、よく見れば元の大統領たちの顔よりも像が盛り上がっていたりしてでたらめなのだが、レーザーがまき上げた粉塵が消えていくと火星人の顔が現れる演出もかっこよく、個人的には『モスラ』で巨大な繭を張られた東京タワーや、『 猿の惑星』の浜辺に埋もれた自由の女神像(のちにバートンは『PLANET OF THE APES/猿の惑星』でリンカーン像の顔をお猿にする)に並ぶような「壊されたシンボル」のひとつだと思っている。
とは言えこの作品の魅力は火星人周りのおもしろさだけではない。火星人の侵略に翻弄される人々を演じる豪華キャストの存在もまた、本作をただの低級映画ではなく、低級映画への愛に溢れたメジャー作品に押し上げる要素である。デイル大統領と不動産王ランドの二役を演じたジャック・ニコルソンをはじめ、大統領夫人役にグレン・クローズ、その娘役ナタリー・ポートマン、ランドの妻バーバラにアネット・ベニング、火星人を研究する科学者にピアース・ブロスナン、火星人とのファーストコンタクトを実況するリポーターにサラ・ジェシカ・パーカー、その恋人役にマイケル・J・フォックスといった具合で、パム・グリア、ジャック・ブラック、クリスティナ・アップルゲイト、そしてトム・ジョーンズといった面々も登場。のちにもっとブレイクする人々もいるものの、次から次へといろいろな人が登場し、一見よくわからなくともキャスト一覧を見て驚いたりする楽しさもある。役柄も皆コミカルでどこか間が抜けており、ジャック・ニコルソンが全ての役をやりたいと言ったのもわかる。まあ、そのほとんどが無惨に命を落とすことになるのだが。
これもトレカの露悪的な絵柄を彷彿とさせるところだが、火星人に捕らえられて実験台にされてしまうピアース・ブロスナンとサラ・ジェシカ・パーカーがインパクト大。サラ・ジェシカ・パーカー演じるナタリーは愛犬のチワワとともに火星人に捕らえられ、なぜか犬と頭を入れ替えられるというおぞましい改造手術を施されてしまう。ショッキングなシーンながら、嘘っぽさがギリギリ滑稽さを保っている。
そしてピアース・ブロスナンと言えば、この少し前に『ゴールデン・アイ』で5代目ジェームズ・ボンドになったばかりのバリバリな時期だが、演じるのは「高度な文明を持っている火星人は友好的に違いない」と信じてやまない呑気な科学者ケスラー教授(砂漠での悲惨な戦いが起こったあとも「なにかの誤解があったのかも」と望みを捨てない)。とは言えパイプをくわえたハンサムな科学者がとても板についており、線のかっちりしたところなども本当に往年のコミック・ヒーローといった雰囲気で、そんな彼が意味もなく全身を切り分けられて頭部だけで生かされるという滑稽な様は、まさに元のトレカの世界観にぴったり。ケスラー教授はそれより前のシーンで火星人の死体を解剖して調べているが、火星人のほとんど遊びのような人体実験は、地球人が真剣に火星人を調べるシーンを笑い飛ばすかのようだ。
最終的にメインキャラクターの大半が死ぬことになるが(政府中枢はほぼ全滅する)、比較的ドラマのある優しい人物だけが生き残るのがせめてもの救い。トレーラーハウスで暮らす家族の中に馴染めなかった心の優しいリッチー(ルーカス・ハース)と、彼が火星人の弱点を見つけるきっかけとなったおばあちゃん(シルヴィア・シドニー)が揃って大統領令嬢ナタリー・ポートマンに表彰され、火星人との闘いを生き延びた元ボクサーのバイロン(ジム・ブラウン)は離婚した妻と子どもたちの暮らす家を訪れ、地獄絵図と化したラス・ベガスからセスナ機で脱出したバーバラとトム・ジョーンズたちは、一夜明けて無数の円盤が墜落したタホ湖を眺めて平和の到来を知る。パニックものや怪獣ものに欠かせない、事態に翻弄される人々の群像劇という部分もしっかり踏襲しているのが丁寧で、なんだかんだハッピーエンドなのもさっぱりしている。ちなみにバーバラを演じたアネット・ベニングは『バットマン リターンズ』でキャットウーマン役を降板して以来の、晴れてのバートン作品出演となる。そのためか、酒浸りのおとぼけなキャラながら、奪ったレーザー銃で火星人を倒したり、最後まで生き残ったりと見せ場が多い。
いずれにせよ、チープなトレカの絵柄を原案に、細部まで大真面目に作り込み、オールスターなキャストでやっているからこそのおもしろさだと思う。むしろトレカの「マーズ・アタック」をとても忠実に映画化しているし、特撮へのオマージュやリスペクトも、上辺だけ真似ただけでは終わらないこだわりよう。決して無駄遣いで片付けることのできない熱量、愛の深さを感じるからこそ、大好きな映画だ。それにやっぱり漫画のような火星人や怪獣が実写の現実世界で大暴れするのはどうしても楽しい。
イラスト・文: 川原瑞丸
1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。