コメディシーンは、プレッシャーで緊張する
Q:映画ファン的には、『あの頃。』で今泉力哉監督と冨永昌敬監督が監督と脚本家として組んだことも、注目ポイントかと思います。
松坂:わかります。僕もテンションが上がりました。こんなコラボレーションの中で現場に立てるのはそうそうあることじゃないし、すごく嬉しいなという思いは純粋にありました。真ん中を行かない感じで、ちょっと屈折していて、でもちゃんと愛情が伝わる男同士の関係性がすごく心地よかったですね。できあがったものを映像で観ていても、そう感じました。
みんながののしり合ったり、毛嫌いしたりという瞬間はあれど、絶妙な仲直り……いや、仲直りしてるか? でも仲いいよな、と思えるような、日常生活でよく見る光景をすごくナチュラルに描いています。無理せず、背伸びもせず、という感じがよかったですね。
仲野:確かに、肩ひじを張っていないがありますよね。冨永さんならではの「真ん中じゃない、端っこで繰り広げられるわちゃわちゃ感」があって、でもその中で起こるドラマにはちゃんと普遍性があって……。脚本自体も面白かったですし、今泉監督が冨永さんをすごくリスペクトされているのが、現場でも伝わってきました。
脚本を尊重したうえで、演出で拡張していく過程が気持ちよかったですね。
©2020『あの頃。』製作委員会
Q:本作はクスッと笑えるシーンも多いですが、おふたりにとって「笑える」「笑わせる」演技は、いかがですか? やりやすいのか、苦労するのか……。
松坂:台本の時点で笑っちゃうと、現場で緊張しますね。読んでいて面白いのが、演じるときは一番大変なんですよ(苦笑)。
仲野:わかります。スタッフさんも「ここは面白いシーンだもんね」というテンションで見てくるんですよ。それで段取りを観たときとかに、「あれ、そうでもない……?」って空気になっちゃったときはもう……きっつい(苦笑)。
松坂:プレッシャーがね(笑)。「これはもう、読んでもらったほうが早いわ」って思う(笑)。
仲野:確かに!(笑)
Q:観ている側としては「自然体で素晴らしいな」と思っていたけど、演じるほうからすると緊張感があったのですね。
仲野:ありましたね。コメディシーンを撮るときは、張り詰めたものがあります。
松坂:人を泣かせるよりも、笑わせるほうが難しいと思う。芸人さんってすごいなと思います。
©2020『あの頃。』製作委員会
Q:今回は対話シーンも多いため、相手がどう仕掛けてくるかも見えない部分がありますよね。
松坂:いやぁ、本当に。太賀が、段取りで急に関係性を変えてきてびっくりしました(笑)。
仲野:(笑)。
松坂:本番に行くまでのストロークの中で、今泉監督ともセッションしながら作っていったのですが、太賀が色々な引き出しを出してくるんです(笑)。何が来るかわからないから、緊張感もあるし鮮度が保たれていましたね。
ある意味、そこでみんなでの一体感が生まれたところもありましたね。他の人はどういう感じで来るんだろう?というドキドキ感というか。そこが面白いところでもありました。
Q:仕掛ける側としては、仲野さんはいかがでしたか?
仲野:楽しかったです(笑)。自由度もすごくありましたし、こっちが仕掛けていくと見せかけて裏で若葉(竜也)くんが仕掛けたり、さらにその奥で芹澤(興人)さんが仕掛けていたり……桃李くんからしたら、色々なところにトラップが仕掛けてある感じだったと思います(笑)。
松坂:今回は受ける側だったから、同じ画角の中にみんなが収まって色々仕掛けてきて、僕の中で情報が渋滞していました(笑)。
松坂桃李
1988年10月17日生まれ、神奈川県出身。
2009年に特撮ドラマ「侍戦隊シンケンジャー」で俳優デビュー。11年『僕たちは世界を変えることができない。』(深作健太監督)、『アントキノイノチ』(瀬々敬久監督)の2作で第85回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第33回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。近年の主な出演作は、映画『不能犯』(18/白石晃士監督)、『娼年』(18/三浦大輔監督)、『居眠り磐音』(19/本木克英監督)、『蜜蜂と遠雷』(19/石川慶監督)など。19年に『孤狼の血』(18/白石和彌監督)で第42回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、20年には『新聞記者』(19/藤井道人監督)で第43回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。2021年は本作以外に『いのちの停車場』(成島出監督)、『孤狼の血 LEVEL2』(白石和彌監督)、『空白』(吉田恵輔監督)が公開予定。4月スタートのNHK土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』で主演を務める。
仲野太賀
1993年2月7日生まれ、東京都出身。
2006年に俳優デビュー。
主な出演映画に、『桐島、部活やめるってよ』(12/吉田大八監督)、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(16/中川龍太郎監督)、『淵に立つ』(16/深田晃司監督)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16/松居大悟監督)、『南瓜とマヨネーズ』(17/冨永昌敬監督)、『海を駆ける』(18/深田晃司監督)、『母さんがどんなに僕を嫌いでも』(18/御法川修監督)、『静かな雨』(20/中川龍太郎監督)、『今日から俺は!!劇場版』(20/福田雄一監督)、『生きちゃった』(20/石井裕也監督)、『泣く子はいねぇが』(20/佐藤快磨監督)、『すばらしき世界』(21/西川美和監督)など。連続ドラマ「コントが始まる」が4月から放送開始予定。
取材・文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema」
『あの頃。』
2021年2月19日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか
全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
©2020『あの頃。』製作委員会