©️ Ali n' Productions – Les Films du Nouveau Monde – Artémis Productions
『モロッコ、彼女たちの朝』マリヤム・トゥザニ監督 求めたのは、親密な二人の女性の肖像画のような映画【Director’s Interview Vol.132】
心の動きと連動した、撮影・美術・衣装
Q:映画という大衆芸術(エンターテインメント)に社会問題を含めて提起することは、無関心層に訴えるのには非常に有効な手段ではないかと思うのですが、その辺りのご意見があれば教えてください。
マリヤム:その通りだと思います。とても効果的ですよね。特に映画の場合は、劇中でキャラクターが経験することや感じていることを、観客もまた経験し感じることができる。そして、映画を観終ったあとは、頭の中で反芻して「こういうことだったのか」と理解することができる。
映画を観てまず感じてもらい、その後は頭で考えて、気づいたことで行動していく。そしてその行動が大きな変化のきっかけとなる。そうなることが理想ですよね。
Q:画がとにかく美しく、特にパンを作っているショットはまるでフェルメールの絵画のようでした、画作りは大変だったかと思いますが、カメラマンや美術、衣装などスタッフとはどのような話をして現場に臨まれたのでしょうか?
マリヤム:明暗のコントラストのある画は、最初からイメージしていました。また、キャラクターの感情の変化を表現するためには、どのような照明にすれば良いか、撮影監督のヴィルジニー・スルデージュとかなり話し合いましたね。主人公たちの気持ちが開いていくにつれて、映画全体も明るくしたり、少しずつカラフルにしているんです。特にアブラの場合は、再び人生を見つける再生の物語でもあるので、そういった変化を視覚的に見せることは重要でした。
『モロッコ、彼女たちの朝』©️ Ali n' Productions – Les Films du Nouveau Monde – Artémis Productions
また、照明だけではなく空間美術も同じように変化させています。最初、彼女たちは閉じこもっているので、空間自体もロックインされているような感じですが、彼女たちの心が開いていくにつれて、ドアが開いていくなど、視覚的な変化を感じられるようにしました。実は衣装も微妙に変化させているんです。
ただ、観ていて「あっ」と気づくようなものにはしたくなくて、何となく感じてもらえるような、ちょっとした変化にとどめています。光、空間、衣装の微妙な使い方は、撮影監督や美術監督と一緒になって、かなり意識して作り込んで行きました。
また、全体的にどこかタイムレスな感じも求めました。例えば、携帯電話を出さないなど、小道具は意識して選択しています。この話は現代社会で起きていることであり、現実に存在している女性たちの物語ではあるのだけれど、同時にどこかタイムレスで、いつの時代なんだろうと考えさせるものにしたかったんです。
Q:日本の観客の皆さんにメッセージを。
マリヤム:日本で劇場公開されることは、大変光栄で誇りに思います。二人の女性の物語がモロッコから大きな旅に出て、地球の反対側にある日本に届けられることは、言葉にできない感動です。
1時間半の上映の間、二人の女性の人生を体験して欲しいし、彼女たちの抱えている葛藤や、生き様の美しさを感じ取ってほしい。これは希望の映画なんです。そんな風に感じてもらえると嬉しいですね。
監督・脚本:マリヤム・トゥザニ
1980年、モロッコ・タンジェ生まれ。映画監督、脚本家、女優。ロンドンの大学に進学するまで故郷であるタンジェで過ごす。初めて監督を務めた短編映画『When They Slept』(12)は、数多くの国際映画祭で上映され、17の賞を受賞。2015年、2作目となる『アヤは海辺に行く』も同様に注目を集め、カイロ国際映画祭での観客賞をはじめ多くの賞を受賞した。夫であるナビール・アユーシュ監督の代表作『Much Loved』(15) では、脚本と撮影に参加、さらにアユーシュ監督最新作『Razzia』(17) では、脚本の共同執筆に加え主役を演じている。本作がマリヤム・トゥザニ監督の長編デビュー作となる。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『モロッコ、彼女たちの朝』
8月13日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
提供:ニューセレクト、ロングライド
配給:ロングライド
©️ Ali n' Productions – Les Films du Nouveau Monde – Artémis Productions