映画は“動作と仕草”
Q:ガット船乗組員の石橋蓮司さんは阪本組常連ですが、船長役の小林薫さんとは初めての顔合わせでした。
阪本:いつかはご一緒したいという方はたくさんいらっしゃって、小林さんもその中のお一人でした。これまであの世代の役は、歳は少し違いますが佐藤浩市くんにやってもらうことが多かったのかもしれません。
小林さんを映像を通して見るのではなく、ご本人と実際に会って生身の印象で接点を見つけようとしました。一緒に呑んだりすると、普段の表情や笑い方などが印象に残るんですよ。この人は、何に腹を立てているのか、何を許せないと思っているのかなど、その人自身を見ようとしていました。それで「お願いするなら今だな」っていう感覚がありましたね。
Q:今回の小林薫さんと余 貴美子さんのような、“諦観した夫婦”が阪本作品では印象的です。あのような夫婦の形は阪本監督流の愛情表現のような気もします。
阪本:そうですね。今は熟年離婚もありますが、離婚には踏み切れないけど本音を吐露しちゃう部分もあったりね。僕は結婚していませんが、結婚して失敗した!って人が周りにいっぱいいますから(笑)。
Q:毎熊克哉さん、坂東龍汰さん、河合優実さん、和田光沙さんと、最近の日本映画で引っ張りだこの若手とも初めて組まれました。
阪本:和田ちゃんは『岬の兄妹』(18 監督:片山慎三)に出ていたから知ってたけどね。坂東くんと河合さんに関しては、僕が無知で全然知らなかったのですが、二人とも本当に良かったですよ。和田ちゃんも毎熊も皆適材適所で、的確な演技をしてくれましたね。
『冬薔薇』©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS
Q:毎熊さんはすでに阪本作品に出ていそうなイメージがありました。
阪本:それが実は今までなかったんですよね。毎熊が出ていた『ケンとカズ』(16 監督:小路紘史)を観ていたから怖くてオファーしなかったんです。「多分、本人も嫌なやつなんだろうな」って勝手に思っていました(笑)。でも生身で会ったら「素直でええ奴やん」って(笑)。
Q:若手俳優に対してはどのようなことを話されたのでしょうか。
阪本:彼らの初日に演技を見せてもらってから「何もしない芝居というものもあるからね」と、若手ほぼ全員に言いました。何らかの感情を伝えるときに、僕にとっては要らない仕草とか、要らない動作とか、要らない目の動きとかがあるんです。僕は「ここのセリフの気持ちはこうだから」なんて説明はほぼしない。大事なのは見え方なんです。映画は“動作と仕草”なんです。それは引き算すべき最も大事なものなんですね。それだけは若手全員に言いました。ホームルームの学校の先生みたいに見えたでしょうね(笑)。