『団地』(16)、『エルネスト』(17)、『半世界』(19)、『一度も撃ってません』(20)、『弟とアンドロイドと僕』(22)と、最近の阪本作品は同じ監督が撮ったとは思えないほどバラエティに富んでいる。しかしどの作品にも共通するのは、“寄る辺なき”人間たちの存在。そこはドラマでもコメディでも変わりはない。人間の本質に迫り、それをいろんな形で見せてくれる。
最新作『冬薔薇(ふゆそうび)』でもそこは変わらない。伊藤健太郎を主演に迎えたこのオリジナル作品に、阪本監督はどんな思いで対峙したのか。話を伺った。
『冬薔薇』あらすじ
ある港町。専門学校にも行かず、半端な不良仲間とつるみ、友人や女から金をせびってはダラダラと生きる渡口淳(伊藤健太郎)。“ロクデナシ”という言葉がよく似合う中途半端な男だ。両親の義一(小林薫)と道子(余貴美子)は埋立て用の土砂をガット船と呼ばれる船で運ぶ海運業を営むが、時代とともに仕事も減り、後継者不足に頭を悩ましながらもなんとか日々をやり過ごしていた。淳はそんな両親の仕事に興味も示さず、親子の会話もほとんどない。そんな折、淳の仲間が何者かに襲われる事件が起きる。そこに浮かび上がった犯人像は思いも寄らぬ人物のものだった……。
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一気呵成に仕上げた脚本
Q:伊藤健太郎さんと会って話をされてからプロット・脚本を書き始めたと伺いました。内容は全くのゼロから立ち上げられたのでしょうか? それとも何か元になるようなものはあったのでしょうか。
阪本:完全にゼロからですね。このコロナ禍で映画も1本飛んだし、こういう機会だからと英語を学ぼうとしましたが、すぐ頓挫(笑)。将来的に自分が作りたい作品のメモとして企画ノートみたいなものを書き溜めようともしましたが、その作業もすぐに止めてしまった。オファーを受けた当時はそんな状況だったので、元になるようなものは何もなかったんですよ。
ただ、以前に『人類資金』(13)でガット船を出したのですが、その時は1日しか撮影できなかったので、もう少し振り下げたい気持ちがあったんです。それで小林薫さん演じる父親の生業に、すぐさまガット船という設定を思いつけた。『団地』のときの漢方薬作りや、『半世界』での炭焼きもそうですが、自分の知らない職業を一度見つけると記憶に残るものなんです。
『冬薔薇』©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS
Q:脚本自体はスムーズに書き上げられたのでしょうか。
阪本:そうですね。5月に健太郎と会って、半年後には撮影に入ってましたからね。10日ぐらい家にこもって、余計なことは考えずに仕上げました。ただ、「どうやってこの物語を思いついたんだろう」とか「なんでこういう人間関係になったんだろう」とか、のちに振り返ってみると、自分でも不思議に思うこともあります(笑)。過去の自作を何らか自己模倣しているのかもしれないですね。