©2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会
『異動辞令は音楽隊!』内田英治監督 役者たちのプロフェッショナルな仕事に感動【Director’s Interview Vol.233】
プロフェッショナルな役者たち
Q:阿部寛さんをはじめ全ての役者さんが、吹き替えなしで演奏されたのが驚きです。普通は本人にやる気があっても、時間などの物理的な問題で吹き替えなしで成立させることは難しいのではないでしょうか。
内田:本作では、ゼロから楽器を始めて演奏が上手くなっていくのと比例して、新しい環境にも徐々に慣れていく状況を描いています。だから可能であれば、是非ご自身で音を奏でて欲しいと役者の皆さんにリクエストしました。阿部さんも「よしわかった」と快諾してくださり、ほとんどの皆さんが楽器未経験にもかかわらず演奏してくださることになった。それで実際に練習を始めたところ、これが想像以上に大変だった。皆さんかなり戸惑われていて、音楽監修の方にも「これは1年ぐらいかけないと厳しいですよ」と言われる始末。僕も迂闊なことを言っちゃったなと…。そこから撮影までは実質1〜2ヶ月ほどしかなかったのですが、いざ実際に撮影が始まると、なんと皆さんしっかり演奏できるようになっている!これは驚きましたね。皆さん各自で死ぬほど練習したと思うんです。そこはやっぱりプロフェッショナルだなと。責任感がすごいですよね。
最初の練習の段階では、これはさすがに難しいのではないかと、我々は諦めざるを得ないような状況にもなったのですが、役者の皆さんから弱音は一切出ず、撮影という決められた時間までにきっちりと仕上げてきた。最終的には皆さん吹き替え無しで演奏してくれて、本当に感動しました。
『異動辞令は音楽隊!』©2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会
Q:阿部さんや音楽隊のメンバー、後輩刑事役の磯村さんに至るまで多くのキャラクターが登場し、ある種群像劇の様相も呈しています。 しかもその多くのキャラクターたちがお互いに絡み合い、それぞれに成長していく過程が描かれる。各俳優に対する演出はどのようにされたのでしょうか。
内田:今回は阿部さんをはじめベテランの役者さんが多かったので、どういう役かを伝えた後は、ご本人たちのキャラクター作りを後ろから眺めているような感じでした。職業モノはキャラクター性が強くなりがちなので、行き過ぎかなと思うと抑えてもらったりはしましたが、キャラクターの背中を一緒に押していくような作り方だったと思います。阿部さんも倍賞美津子さんも皆さんアイデアがとても豊富なので、現場で出てくるアイデアを見るのも面白かったですね。
また、現場の出演者が多いので面白い相乗効果が出るんです。楽団だけで25人近くいるのですが、それだけの人数が集まると何だか変な空気が出来てくる。それをうまく捉えることが自分のミッションだったのかなと思いますね。
Q:個人的には磯村勇斗さんがすごく印象に残りました。後半で阿部さんと対峙するシーンは胸が熱くなります。
内田:磯村くんは面白い役者ですよね。いい意味で今っぽい。今回の役者さんたちの中では、比較的たくさん話をしたと思います。後半のシーンは試行錯誤して撮影したので時間がかかりましたが、それを優しく見つめる阿部さんがいて、すごくいい雰囲気でした。まさに「現場で生まれる演技」が撮れましたね。今回はリハーサルを全くやらなかったのですが、もし事前にリハーサルをやっていたら、このシーンは生まれなかったかもしれません。