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『異動辞令は音楽隊!』内田英治監督 役者たちのプロフェッショナルな仕事に感動【Director’s Interview Vol.233】
日本映画界の課題とは
Q:縦横無尽に動くカメラに映画のスケール感を感じました。撮影の伊藤麻樹さんとはどんなことを話されたのでしょうか。
内田:『ミッドナイトスワン』のときは「無駄な移動はやめよう」というコンセプトがあったのですが、今回は逆に「いっぱい動こう」と最初から言っていました。また、撮影の前にたまたまNETFLIXの『クイーンズ・ギャンビット』(20)を観たのですが、その撮影がすごく秀逸だったんです。聞くところによると特殊なカメラを使っているらしく(※)、ワイドがとてもいい感じに出ていた。「あのカメラを使ってみたい」と伊藤さんに言ったら、どうやら日本の映画撮影ではとても使えないような高価なカメラだったらしく、それでも彼女が無理して借りてきてくれた。迫力ある映像が撮れたのは、彼女がそのカメラを使いこなしたおかげもあると思います。(※)『クイーンズ・ギャンビット』はRED MONSTRO 8Kで撮影された。
Q:クレーンワークも凄まじかったですね。
内田:伊藤さんは相当早い段階から現場に入って、クレーンを操る特機さんと色々準備していました。カメラワークにはかなりこだわる伊藤さんなので、時間や予算がない中でも色々苦労しながら一生懸命やってくれました。クレーンも毎日使えるわけではないんです。
Q:渋滞の車が左右に開くシーンもダイナミックでした。
内田:あそこは実際の公道なので大変でした。豊橋市の完全協力のおかげで実現できましたが、ああいった撮影は豊橋でしか出来ないんじゃないかな。
『異動辞令は音楽隊!』©2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会
Q:この作品も含め最近は面白い日本映画がどんどん出てきていますが、ここ数年の日本映画界をどう感じていますか?
内田:若い個性的な子はどんどん出て来ていると思いますし、僕の周りにも結構います。ただ、6〜7年前はちょっとしたインディーズブームみたいな感じでしたが、今は逆にインディーズ映画は減っているような気がします。そこが国の助成金などで何らかバックアップできるようになれば、もっと良くなっていくと思いますね。
ただ一方で、小中規模の作品がやりづらくなっているのも間違いありません。映画を作るには時間がかかりますが、今は根性だけで長時間撮影を続けるという時代ではない。だからちゃんとした予算をしっかりと確保しないと、映画を撮ることが出来ない。そうなると必然的に小中規模の作品はどんどん減ってしまう。海外の場合は国が補助してくれるから、小中規模の実験的な映画でも成り立ちますが、日本の場合はそれが無いんです。
また、今回のプロデューサーみたいに「さぁやろう!」とオリジナルにチャレンジしてくれれば良いのですが、ベストセラー原作のような売上げの保証を求められる時代はまだまだ続くと思います。その中でどうオリジナリティのあるものを作っていくか、それも課題ですね。
Q:実際にその壁をぶち破って、オリジナルの『ミッドスワン』をヒットに導きました。今回のオリジナルも面白かったので、是非その事例につながっていって欲しいです。
内田:ありがとうございます。応援していただければ嬉しいです。
Q:では最後に影響を受けた作品や監督についてお聞かせください。
内田:影響を受けたのは北野武監督です。北野監督が手がけるような犯罪映画が好きでして、そういった人間のダークな部分をテーマに選ぶような、デヴィッド・リンチやマーティン・スコセッシのような監督も好きですね。
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原案・監督・脚本:内田英治
『ミッドナイトスワン』(20)で日本アカデミー賞最優秀作品受賞。ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。週刊プレイボーイ記者を経て99年「教習所物語」(TBS)で脚本家デビューの後、『ガチャポン!』(04)で映画監督デビュー。『グレイトフルデッド』(14)がゆうばり国際ファンタスティック映画祭、ブリュッセル・ファンタスティック映画祭(ベルギー)など多くの主要映画祭で評価された。その他『獣道』(17)、NETFLIX「全裸監督」(19)では脚本・監督も手がけた。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『異動辞令は音楽隊!』
8月26日(金)全国ロードショー
配給:ギャガ
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