映画化返上を考えたほどのプレッシャー
Q:思い入れの強いマンガを映画という手法を用いて再構築されたわけですが、実際に作ってみていかがでしたか? 自分で映画化できるというワクワクもありつつも、愛の深さ故にプレッシャーもあったのかなと。
タナダ:いやぁもう凄まじいプレッシャーでした。場所を探すのにまず手こずって、“まりがおか岬”みたいなところがまぁ無いんですよ。その時点で「(映画化を)返上した方がいいのかな」ってところまで追い詰められていました。いろいろ探してやっと青森で見つかったのですが、私が一足先にロケハンに行ったときは、海向きで撮るときとススキ向きで撮るときはカットごとに場所を変えないとダメな感じでした。でもメインスタッフと再度ロケハンに行くと、海もススキも全部一緒に撮影できるバッチリの場所が見つかったんです。カットごとに場所を変えてお芝居をさせるのは俳優にとって相当きついのですが、場所が見つかったおかげでそれを強いずに済んだ。そしてやっとインできることの安堵感でいっぱいになったのを覚えています。
それでも現場に入ってからは当然楽しいだけでは済まず、芽郁ちゃんや奈緒ちゃん、窪田くんなど俳優部の皆さんや各スタッフの頑張りが結実するようなお芝居を毎日見せられていたので、更にプレッシャーは募っていきました。ただそこで尻込みするのも失礼なので、ここまでのものを見せてくれた以上はちゃんと仕上げねばという思いでしたね。
『マイ・ブロークン・マリコ』(C)2022 映画『マイ・ブロークン・マリコ』製作委員会
Q:皆それぞれ自分の好きなマンガがあって、それが映画化されると違和感を覚えることもあったりしますが、この作品は「絶対そうしないようにするぞ」という監督の強い気持ちを感じました。
タナダ:自分が一番のファンでありたいというところもあり、マンガや小説をやたら実写化するのはあんまり賛成ではありません(笑)。特にマンガって画があるから、演じる方もすごいプレッシャーのはずなんです。でもそれをやってくれる人が現れた以上は、何とかして仕上げないといけない。原作の邪魔を絶対にしないぞという思いで、気づかないぐらいの範囲で調整しつつ実写化できるといいなと。そう、マンガ原作って怖いんです(笑)。
Q:では最後の質問です。タナダ監督が影響を受けた監督や作品を教えてください。
タナダ:相米慎二監督、増村保造監督、成瀬巳喜男監督、あと岡本喜八監督と…って、どんどん出て来ちゃいますね(笑)。影響受けたくても天才すぎて受けられない監督ばかりです。
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監督・脚本:タナダユキ
福岡県出身。テレビドラマ、配信ドラマ、CMも手がけ、小説の執筆も行う。『モル』(01/脚本・監督・出演)で第23回PFF アワートドグランプリ及びブリリアント賞を受賞。『月とチェリー』(04/脚本・監督)が英国映画協会の「21世紀の称賛に値する日本映画10本」に選出。『百万円と苦虫女』(08/脚本・監督)で日本映画監督協会新人賞を受賞。配信ドラマ「東京女子図鑑」で第33回ATP賞テレビドラマグランプリ特別賞。映画『ロマンスドール』(20/脚本・監督)は自身の小説を原作に映画化。最新映画は『浜の朝日の嘘つきどもと』(21/脚本・監督)。同名のテレビ版は2021年民放連ドラマ部門最優秀賞を受賞した。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『マイ・ブロークン・マリコ』
9月30日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ/KADOKAWA
(C)2022 映画『マイ・ブロークン・マリコ』製作委員会