現場で起こる化学反応
Q:松井さん自身の原作への思いもあって、色々と準備して撮影に望まれたと思いますが、実際の現場ではいかがでしたか?
松井:最初は原作が好き過ぎるがゆえに頑なになる部分があって、「だってこう書いてあるから」と思うこともありました。もちろん原作はそうなのですが、今は映画としての『よだかの片想い』を作っている。映画のアイコを作っていきたいと、監督やプロデューサーの方々に言われ納得する部分も徐々に出てきました。
飛坂さんとぶつかるシーンの撮影の際に、私がすごく弱い感情を飛坂さんに対してぶつけていると、監督から「アイコはたくましい人だからもっと強い気待ちでぶつかって欲しい」と言われたんです。飛坂に対しては弱さを見せるのがアイコなんだと、私は勝手に思っていたので、最初は監督に言われたことが全然分からなかった。それでも「分からないけどやってみます」と監督の言った通りにやってみると、怒りに近い強い感情の中に、悔しさや悲しさ、もどかしさなど色んなものが溢れ出てきた。すごく面白い化学反応が起きて、しかもそれを中島さんが全部受け止めてくださった。中島さんの人柄の大きさもありますし、安川監督のことを信じて、分からないけど飛び込んでみたことは、今まで自分には出来なかった経験だったと思います。
『よだかの片想い』©島本理生/集英社 ©2021映画「よだかの片想い」製作委員会
中島:部屋の中で久々に会うシーンだよね。あそこは結構何度もやったので、僕も印象的でした。松井さんは書かれている感情を表現するという状態から始まっていたので、それだとすごく単一的なものになってしまう。それぞれが相手にどうなって欲しいかという主張をぶつけ合っている状態がそこに起きていれば、お客さんはそれを観て色々と察するだろうし、松井さんが今言ったような発見が僕にも起こってくる。あのシーンはテイクを重ねるたびに良くなっていきましたし、上がりも良かったですね。
Q:本作は劇中劇があり、ある種メタ構造の部分があります。例えば、手島実優さん演じる女優の城崎が「あざのメイクをしたまま暮らしてみた」というシーンがありますが、現実として松井さんは今回実際にあざのメイクをして挑んでいます。あのシーンはどのように捉えられましたか?
松井:アイコとして受け止めていたのだと思いますが、言われてみれば確かにそうですね。
中島:自分が映画化されるというアイコの葛藤や抵抗がメタ的に表現されていると思います。これは城定さんが話されていたのですが、実際の出来事やモデルがいたりすることを映画化してお客さんを呼ぶこと自体に、映画が持っている原罪があると。そういったことが二人の恋愛関係を通して露わになっていると思いますね。
Q:あの構造は非常に秀逸だと思いました。城定さんとは撮影前に話されたりしたのでしょうか。
中島:いえ、その話は撮影が終わってから聞きました。この『よだかの片想い』は、城定さんが監督されて僕が出演した『愛なのに』(21)と並行して撮影していたんです。『愛なのに』を撮影している際は特にこちらの話はしておらず「どうですか?元気にやってますか?」ぐらいでしたね(笑)。中身についてはそんなに話さなかったです。
Q:『愛なのに』と『よだかの片想い』では中島さんの役は全然違うキャラクターですが、よく並行して出来ましたね。
中島:そうですね。あの時は頑張ったなぁ。自分で言うのもなんですが(笑)。