直木賞作家の島本理生が手がけた傑作恋愛小説を城定秀夫が脚本化し、長編映画2本目の新鋭・安川有果が監督した『よだかの片想い』。今ノリに乗っている城定監督が手がけた脚本を安川監督の新たな感性で映像化した本作は、みずみずしさに溢れつつ、まさに“今”の時代の恋愛映画として誕生した。その作品を生み出した大きな要因のひとつが、主演の松井玲奈と中島歩のナチュラルな佇まいだろう。特に松井は原作小説に惚れ込み、松井自身が映像化を長年熱望していたほどの原作の大ファン。松井はどのような思いで本作に臨んだのか、またそれを受ける中島はどう対峙したのか。二人に話を伺った。
『よだかの片想い』あらすじ
理系大学院生・前田アイコ(松井玲奈)の顔の左側にはアザがある。幼い頃、そのアザをからかわれたことで恋や遊びには消極的になっていた。しかし、「顔にアザや怪我を負った人」をテーマにしたルポ本の取材を受けてから状況は一変。本の映画化の話が進み、監督の飛坂逢太(中島歩)と出会う。初めは映画化を断っていたアイコだったが、次第に彼の人柄に惹かれ、不器用に距離を縮めていく。しかし、飛坂の元恋人の存在、そして飛坂は映画化の実現のために自分に近づいたという懐疑心が、アイコの「恋」と「人生」を大きく変えていくことになる・・・。
Index
城定脚本が追加したもの
Q:完成した映画をご覧になっていかがでしたか。
中島:面白かったです。小説の映画化なので言葉が大きな要素になるのはもちろんですが、映像でしか感じられない表現もたくさんありました。監督の映像表現が想像以上に効いていたと思います。特にラストでアイコが踊るシーンは圧倒されるくらいに良かったですね。
松井:すごく好きな原作なので、映画になったときにどうなるのか、また自分自身も大丈夫だろうかという不安がありました。ですが、実際に完成した映画を観ると安川さん独特のテンポ感を映像の中に感じ、気づくと物語の中に引き込まれていました。私もラストシーンは特に印象的で、完成したものを観たときは本当に美しい場面だなと思いました。ああいう映像になるとは想像出来ていなかった。小説の終わり方とは違う、映画の『よだかの片想い』としての最善なラストシーンがそこにあったと思います。
Q:ラストシーンは監督と松井さんが話されて変更したと聞きました。当初の脚本では違う内容だったのでしょうか。
松井:どう違っていたのか全然覚えてないです(笑)。もしかしたら、原作と映画のラストの違いについて質問したりしていたかもしれません。脚本にあった映画のラストについては、自分がアイコを演じていて、ラテンダンス(サンバ)のステップを踊れるかも分からなかったし、どんな感じになるかも想像できなかった。「どうなりますか?」と撮影ギリギリまで監督に相談するくらい不安でしたが、でもいざやってみると、どんどん楽しくなって開放的になれたし、あのシーンではミュウ先輩(藤井美菜)から受け取るものもあった。分からないままやってみることも、ある意味大事なんだと思いました。
松井玲奈
中島:あのシーンでは、言葉の世界からフィジカルな世界になっていく感じが、アイコにとって一皮剥けていくように見えますよね。最後にアイコの横顔にカメラが寄るのですが、「あ、この顔を見るために映画を観てたんじゃないか」と思えるくらいの開放感があった。すごくいいなと思いましたね。原作では、サンバのサの字も出てこないんですけどね(笑)。
松井:そうですよね(笑)。全く無いんですよ。
Q:ラテンダンス/サンバの件は脚本の城定さんが入れたと聞きました。
中島:安川さんもサンバを入れることは最初反対したらしい(笑)。
松井:安川さん自身も「サ、サンバは...。」みたいになってたんですけど、でも撮ってみたら結果よかった。
中島:いやぁすごいアイデアだよね。突拍子もなさすぎるから(笑)、でもすごくよかったですね。
松井:踊っていると、どんどん解放されていく感じがあって、気づくと笑って楽しんでいた。頭だけで考えたら絶対できないことだし、いいラストを作ってもらったなと思います。
中島:しかもその変化をワンカットで撮ってるから、すごく分かりやすかった。