新しいスタッフと新しい発見
Q:主演の阿部寛さんに、Charaさん、宮藤官九郎さん、見栄晴さんなど、あるようでなかったキャスティングが新鮮ですが、キャスティングの経緯を教えてください。
岨手:キャスティングについては”M”が誰になるかで他のバランスも変わってくる。まず阿部さんが決まってから、私も阿部さんに寄せて脚本を当て書きしていきました。阿部さんが主演としてかなり面白い存在になってくれるだろうから、周りのキャスティングは楽しんでもいいんじゃないかと。見栄晴さんも実際にどんな感じのお芝居をするんだろうと思って、出演されている作品を観たりしましたが、結局はバラエティ番組に出ている姿をみて「これは(喫茶店の)マスターだ!」とお願いしました。
Q:今回の見栄晴さんすごくいいですよね。
岨手:”M”とバディ感もあって、すごく良かったですね。
Q:撮影の四宮さんとは初タッグかと思いますが、ご一緒されていかがでしたか。四宮さんのトーンでもあり、岨手監督のトーンにもなっているのは不思議でした。
岨手:印象的だったのは「実在感を撮ることが自分の役目だ」とクランクイン前に四宮さんが仰ったことです。虚実入り混じった日常の悲喜こもごもを描く作品だからこそ、上滑りしないようにちゃんと実在感がある人物として撮っていきたいと。私はそういう観点では考えていなかったので、「あ、なるほど」とすごく安心しました。それでもうお任せしようと思いましたね。
『すべて忘れてしまうから』© Moegara,FUSOSHA 2020 © 2022 Disney and related entities.
Q:撮影時のカット割りなどは監督から指示される方ですか。
岨手:『あのこは貴族』で撮影してもらった佐々木靖之さんは事前にカット割りを打ち合わせて現場に入るタイプでしたが、四宮さんはカット割りを監督に任せるタイプ。カット割は監督が作る行間だから、自分が口を出すことじゃないという考え方なんです。なので、カット割やヨリかヒキかみたいなことは私が決めるのですが、その上でどういうヒキか、どういうヨリかみたいなことは、四宮さんがご自身の見立てで画を作ってくださった。それを私も確認しながら撮影していきました。
Q:これまでは東京テアトルの西ヶ谷プロデューサーと一緒にやることが多かったと思いますが、今回は他のプロデューサーで初めてのスタッフの方も多かったですね。
岨手:そうですね。それこそ西ヶ谷さんからは「修行してこい!」みたいに言われました。実は西ヶ谷さんも現場に来てエキストラをやってくれたりしたんです(笑)。一番大きかったのはご一緒するカメラマンが初めてということですかね。苦戦もありましたが新しい発見もあって良かったですね。
Q:本作の監督には他にも沖田修一さんや大江崇允さんが参加されています。この体制は最初から決まっていたのでしょうか。
岨手:監督は何人かでやる予定でしたが、実際に沖田さんと大江さんが決定したのは撮影直前でした。それまでは自分一人で撮る可能性も踏まえて準備をしていました。
Q:お二人は脚本も担当されていますね。
岨手:お二人がご自身で演出される回は、私が書いた脚本にそれぞれの色で味付けしてもらうような感じで脚本にも入ってもらいました。10話全体を通してつながる部分だけ変わらなければ、演出やニュアンスは変えていただいて結構ですとお任せしたので、特に沖田さんの回はまさに沖田さん!という感じになっています。
Q:沖田さんの回は現場にも行かれたのでしょうか。
岨手:もちろんです!自身が監督だと他の監督の現場を見る機会ってなかなかないので、すごく勉強になりました。沖田さんの演出する現場は楽しかったですね。