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『ある男』石川慶監督 「邦画を作ろう」という思いがあった【Director’s Interview Vol.263】

『ある男』石川慶監督 「邦画を作ろう」という思いがあった【Director’s Interview Vol.263】

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「邦画を作ろう」という思い



Q:今回の撮影は初めて組まれる近藤龍人さんです。スタッフィングの経緯を教えてください。 

 

石川:コロナ禍ということもあり、いつも撮影監督をお願いしているピオトル(・ニエミイスキ)をポーランドから呼ぶのもあまり現実的ではなかった。今まではポーランド人カメラマンの視点で映画を撮ってきて、良くも悪くも現実から浮いたような空気感になっているのがすごく好きでした。でも今回はちゃんと地に足の着いた土の匂いのする画を撮りたかった。宮崎では木の匂い、横浜では鉄のインダストリーな感じ、伊香保も独特の空気感、そういったものをきっちり撮ってくためには、やっぱり国内のカメラマンかなと。そう考えると今は近藤さんだろうと。脚本が向井さんだということもありますしね。


Q:撮影が近藤さんになったことにより、これまでの石川作品とはかなり印象が違う感じがしました。ご自身の実感としてはいかがですか。 

 

石川:近藤さんと組むということは、今までと違う感じにしたいということでもあるので、印象が変わらないと困りますね(笑)。それでも残るものが自分にとっての揺るがないものだと思います。これまで色んなテーマで撮ってきたこともあり、自分の核みたいなものを確認する意味でも、今回はすごく意味のある作品だったと思っています。



『ある男』©2022「ある男」製作委員会


Q:本作を観ていると『砂の器』や『人間の証明』など往年の邦画のミステリー大作を思い出しました。ご自身の中で意識された部分はありますか?

 

石川:そうなんです。今その映画名が出て非常に嬉しかったです。『砂の器』や『人間の証明』『飢餓海峡』など、あの頃のミステリー大作は娯楽でもありつつも、ちゃんと社会を描いていた。そういうのをすごくやりたかったんです。これまでは「邦画に無いもの」を作りたいという志向があったのですが、今回は逆に「邦画を作ろう」という思いがありました。


Q:今回は松竹映画だからというのもあるのでしょうか。


石川:それもちょっとありましたね。『愚行録』をもう一度やりたいということではなかったので、では何が違うんだろうと考えていました。以前に『十年 Ten Years Japan』(18)というオムニバス映画を撮ったときに、総合監修だった是枝裕和さんと話をしたのですが、是枝さんが定期的にスタッフやカメラマンを変えているのは、マンネリ化を防ぐためでもあると。あの是枝さんでも自己革新のようなことを意図的にやっていると聞いて、自分は何を変えられるのだろうと。そういったことを考えていた時期だったことも大きいですね。


Q:以前、ある映画監督に聞いた「縮小再生産に陥る」という印象的な言葉があったのですが、今の話を聞いてそれを思い出しました。


石川:「映画化しませんか?」と話が来て「なぜ自分だったのですか?」と聞くと、「画が素晴らいから」という話をされることが多かった。よくよく聞いてみると、ポーランド人のピオトルに撮って欲しいから自分に話が来ているようだった。そんな依頼が殺到した時期があったんです。そういう意味でも、日本人のカメラマンと組んだ上で、自分の方向性や作るものをちゃんと見つめたかったところはあります。



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監督・編集:石川慶

1977年生まれ、愛知県出身。ポーランド国立映画大学で演出を学ぶ。2017年に公開した『愚行録』では、ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に選出されたほか、新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭、日本映画プロフェッショナル大賞では新人監督賞も受賞。恩田陸の傑作ベストセラーを実写映画化した音楽青春ドラマ『蜜蜂と遠雷』(19)では、毎日映画コンクール日本映画大賞、日本アカデミー賞優秀作品賞などを受賞。また、世界的SF作家ケン・リュウの原作を映画化した『Arc アーク』(21)や短編『点』(17)がある。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『ある男』

11月18日(金)全国ロードショー

配給:松竹

©2022「ある男」製作委員会

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