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『戦慄のリンク』、Jホラーのエッセンス【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.16】

©2020伊梨大盛伝奇影業有限公司

『戦慄のリンク』、Jホラーのエッセンス【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.16】

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 『戦慄のリンク』(20)公開は待ち焦がれていた。鶴田法男監督から中国で潤沢な予算を使って映画を撮ったけれど、国内で上映できるかどうかわからないと聞いていた。鶴田法男といえば「Jホラーの父」だ。さすが中国エンタメは人も金も引っ張ってくるんだなぁと感心した。どうも円の単位で3億くらい使えたらしい。中国映画で鶴田法男はどんな仕事をしたのだろうと興味がつのった。ただタイミングは悪かったのだ。コロナ禍は中国でも日本でもエンタメを殺しにきた。


 国内で最初にプレミア上映されたのは今年7月、新宿シネマカリテの「カリコレ」だ。もう僕はソッコーでチケットを購入、映画館に駆けつけた。で、鶴田監督を見かけて「鶴ちゃん!」と声をかけた。申し訳ないが、僕にとっては鶴ちゃんなのだ。ハタチくらいからのつき合い。まだお互い学生で、将来のことなんかろくすっぽ考えてなかった頃、鶴ちゃんは名画座「三鷹オスカー」の息子で、とんでもなく映画に詳しい友人だった。会うとポケットから三鷹オスカーのタダ券を出して3、4枚くれるのだ。お金のない学生時代にはめっちゃありがたい友達だ。そのうちに郵送で送ってくれるようになった。僕は鶴ちゃんのおかげで大学時代、年間100本ペースで映画を見た。これは間違いなくライターとしての「基礎体力」になっている。


※『戦慄のリンク』の冒頭、三鷹オスカーのクレジットが入る。これは鶴田監督が自分でもお金を出して国内上映にこぎつけましたよという証しだが、もうひとつは今はなき三鷹オスカーに捧げた献辞のような意味合いだ。


 学生時代、鶴ちゃんが言ってたことで印象に残っているのは、山田洋次監督の映画について「フレームがない」と表現したことだ。まぁ、生意気盛りのワカゾーの物言いだから失礼があったら許してやってほしい。今、あらためてその話を振ってみると「フレームを感じさせないほどのしっかりした芝居を撮る」監督という表現に変わっていた。じゃ、鶴田法男監督はどうかというと「フレームのある監督」「絵を撮る」監督だと思う。


 ここはもう「Jホラーの父」として、(同業者も含め)熱心なファンに支持されている鶴田監督の核心部分のような話だ。芝居を見せるのではなく映像を見せる。映像で恐怖を演出する。世界じゅうにファンの多い「Jホラー」とは何かといえば、主として平成期、集中的につくられた恐怖映像の饗宴だ。その先駆的な作家のひとりに我らが鶴ちゃんがいた。僕にブライアン・デ・パルマの『殺しのドレス』(80)を教えてくれた鶴ちゃんがいた。


 『戦慄のリンク』は鶴田監督の作品が好きな人なら「あの感じ」でわかる、Jホラーのエッセンスが詰まった映画だ。呪いのビデオならぬ「呪いのネット小説」が登場し、恐怖をあおっていく。が、(これは鶴田監督本人に確認し、オープンにしていいということになったのだが)、この映画は中国映画なのだ。僕も7月の「カリコレ」上映のアフタートークで初めて知ったのだが、検閲のような仕組み(鶴ちゃんは「審査」と言っていた)があり、「超常現象や霊魂等、合理性のないものはNG」「警察(国家)が勝利し、物事を解決しなくちゃならない」ということになるらしい。脚本の段階で最初のチェックが入り、その後ラッシュを見るなど、日本で映画製作するのとはぜんぜん違うプロセスが加わる。


 と、「呪いのネット小説」はどうなるかというと、2017年ロシア発祥の「青いクジラ事件(ブルー・ホエール・チャレンジ)」をモチーフにしたネットの自殺教唆コミュニティという解釈がなされる。わけのわからない魑魅魍魎や亡者が作用するのでなく、あくまで人間が扇動する犯罪という解釈だ。ここら辺は「宗教はアヘンだ」式の共産主義の発露かもしれないし、強権的な国家管理体制ゆえかもしれない。



『戦慄のリンク』©2020伊梨大盛伝奇影業有限公司


 鶴田監督は逆にそれを面白がる。結果的に『戦慄のリンク』はJホラーのエッセンスを過剰にたたえながら、物語的には似ても似つかないところ(警察が犯罪を取り締まる)に着地する。これが本当に面白いのだ。見方によってはJホラーのオマージュやパロディでもあるし、見方によっては「あの感じ」総動員のオールスター戦でもある。


 鶴田監督は「制約があるので普段ならやらない遊びができたところもあります。例えばトリックアートをやりました。モノの影が人の顔に見えたりするのは、怪異ではなく、人の恐怖心が生み出す錯覚だからOKなんです」と語る。検閲というと、僕なんかは三谷幸喜『笑の大学』(04)で描かれたような戦中の弾圧を連想してしまうが、よくよく考えてみれば今の日本だってコンプライアンスや商業要請等々、現実的な制約のなかでものを作っている。でなければ予算的な制約がある。あの頃、ハタチだった僕らはもう慣れている。そのくらいじゃくじけない。鶴ちゃんも僕も、そういうなかでずっと仕事をしてきた。


 というわけで『戦慄のリンク』は「Jホラーそっくりの中国映画」であり、「恐怖映画そっくりのサスペンス劇」になっている。これは事情がわかって見たほうが絶対に面白い。見事仕上げた鶴田法男監督と、あの頃若かった映画青年・鶴ちゃんに拍手を送りたい。僕はこの国内上映が飛び上がるほど嬉しい。


追記、鶴田法男監督は恐怖小説の書き手としても活躍中です。関連シリーズ76万部突破の最新巻『恐怖コレクター 巻ノ二十 宿命の再会』(共著:佐東みどり)が12月14日発売とのこと。



文:えのきどいちろう

1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido




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『戦慄のリンク』

2022年12月23日(金)より新宿シネマカリテほか全国ロードショー

提供:三鷹オスカー/フィールドワークス 配給・宣伝:フリーマン・オフィス

©2020伊梨大盛伝奇影業有限公司

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