DRESSED TO KILL (C) 1980 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
『殺しのドレス』ヒッチコックの模倣以上にデ・パルマの技巧を満喫したい
『殺しのドレス』あらすじ
性的な欲求不満を抱えた人妻のケイト(A・ディキンソン)は、精神分析医エリオット(M・ケイン)の診察を受けた後、昼下がりの美術館で見知らぬ男に誘惑され、初めての浮気に酔う。だが、男の部屋を出た彼女は、エレベーターでサングラスをかけた謎の女に襲われ、全身を鋭利な剃刀でズタズタに切り刻まれてしまう。血の惨劇を目撃した娼婦のリズ(N・アレン)は、ケイトの息子ピーター(K・ゴードン)と共に犯人探しに乗り出し、謎の女はエリオットの患者ではないかと推理するが……。
Index
賛否が分かれるからこそ、愛したくなるデ・パルマ映画
1970年代、ハリウッドの中核を築き始めたフィルムメーカーたちは、横のつながりも密であり、スティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、フランシス・フォード・コッポラ、マーティン・スコセッシ、ブライアン・デ・パルマらの交流は今も語り草になっている。スピルバーグ、スコセッシは現在も新作が大きな話題を集めているが、ルーカス.コッポラは残念ながら第一線の監督として活躍しているとは言い難い。その中で独自の映画作りを貫いている存在が、ブライアン・デ・パルマではないだろうか。近年は監督作品のインターバルが長く空く時期もあるが、2018年には新作『Domino』も完成させている(2019年現在未上映)。
しかしデ・パルマの作品が、その最大な持ち味である鮮烈なまでに怪しい輝きを放っていたのは、1970〜80年代だろう。スティーヴン・キングの小説の初の映画化として成功した『キャリー』(76)のように、大多数に絶賛された作品から、オールスターを起用したのにテクニックに溺れただけと大多数に否定された『虚栄のかがり火』(90)といった極端な作品もあるが、デ・パルマのこの時期は、作品自体が、賛否、というより好き嫌いが分かれるゆえに語り継がれているものも多い。その最たる作品のひとつが『殺しのドレス』である。
『殺しのドレス』DRESSED TO KILL (C) 1980 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
1970年代末にデ・パルマは、小説『クルージング』の脚本に取り掛かっていたが、映画化の権利を得ることができなかった。同作をウィリアム・フリードキンが監督することになったためだ。その『クルージング』でのアイデアも入れつつ、自身の少年時代、母親に父親の浮気調査を頼まれた実体験にもインスパイアされて創作したのが、『殺しのドレス』である。デ・パルマ少年は父の調査の際に録音機器を駆使していそうで、『殺しのドレス』の中で、母の殺害事件の真相を追う息子のピーターは、デ・パルマの分身となる。