DRESSED TO KILL (C) 1980 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
『殺しのドレス』ヒッチコックの模倣以上にデ・パルマの技巧を満喫したい
もはや迷宮。スプリット・スクリーンとその先の画面
スローモーションや長回しなど、デ・パルマの他の作品でも多用されるテクニックは『殺しのドレス』でも顕著だが、最もインパクトを与える手法はスプリット・スクリーンかもしれない。『キャリー』のプロムの惨劇で異様な効果を発揮したスクリーンの2分割を、デ・パルマは『殺しのドレス』で、やや実験的な遊び感覚で使用している。
それぞれの自宅にいるマイケル・ケインとナンシー・アレンが2分割の画面に登場するのだが、やがて2人が同じテレビを見ていることがわかる(そのテレビに出ている人物も本作の物語に深くつながる)。2分割の中にテレビのモニターが映り、片方でモニターがアップになったりするうえ、ナンシーの側では2枚の鏡が置かれ、映り込んだ彼女の顔が「2つの画面」のように見えたりもする。音声も最初は別々なのだが、テレビの音がひとつに合体する。スプリット・スクリーンの効果というより、複数の画面で観客を不思議な感覚に誘う、異常ともいえるシーンが仕上がった。
『殺しのドレス』DRESSED TO KILL (C) 1980 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
その他にもアンジー・ディッキンソンがマイケル・ケインを訪ねるシーンや、ナンシー・アレンがマイケル・ケインを挑発するシーン、路上のバイクに盗撮カメラを仕掛けた後のシーンなど、画面の中央で左右半分に分けるラインを感じさせる、スプリット・スクリーンのような錯覚をおぼえる絵作りが多用され、明らかにデ・パルマの意図を感じさせるのだ。