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『殺しのドレス』ヒッチコックの模倣以上にデ・パルマの技巧を満喫したい

DRESSED TO KILL (C) 1980 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

『殺しのドレス』ヒッチコックの模倣以上にデ・パルマの技巧を満喫したい

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『サイコ』を起点に、よりエロティックな世界へ



 『殺しのドレス』は女性への過激なバイオレンス描写が波紋を呼んで、上映反対運動が起こり、ラジー賞にも主演男・女優、監督の計3部門にノミネート。デ・パルマは同監督賞に計5回ノミネートされたが、その最初の1作となった。敬愛するアルフレッド・ヒッチコックからのあからさまな影響や、シーンによっては辻褄が合っていないような描写、前半の緊迫感が後半は失速し、けっこうグダグダに感じる箇所もあるなど、ツッコミどころも多い。しかし同時に、いくつかのデ・パルマらしい演出やテクニック(「デ・パルマカット」などと呼ばれた)が忘れがたい印象を残しているのも事実だ。


 『サイコ』(60)との共通点はいくつもあり、メインの女性キャラクターが早い段階で姿を消し、その殺害描写も近似するほか、別シーンでのシャワーの引用、そして内向的な性格の息子と母親の役割など、分かりやすすぎるほど。マイケル・ケインの女装姿に、『ファミリー・プロット』(76)のカレン・ブラックをそのまま再現するなど、他のヒッチコック作品へのオマージュも多い。ちなみに身長の高い男優に女装をさせるのは、『ファントム・オブ・パラダイス』(74)、『レイジング・ケイン』(92)などデ・パルマの大好物である。サスペンスとエロスの融合という点で、ヒッチコックの『フレンジー』(72)と比較され、酷評されることもあった。



『殺しのドレス』DRESSED TO KILL (C) 1980 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.


 『殺しのドレス』で最も心をざわめかせるのは、美術館のシーンだろう。主婦ケイトが男の視線に気づき、欲望がめざめていく過程を、美術館内を迷路のようにさまよう彼女の動きに合わせて表現していく。外観はNYのメトロポリタン美術館だが、内部の撮影許可は下りず、フィラデルフィア美術館で撮影された。ケイト役のアンジー・ディキンソンは、ステディカムを操作するカメラマンに付けたロープを握りながら館内を移動した。カメラと完璧に一定の距離を保ち、レンズの焦点距離から外れないようにするためだ。あまりに美しいステディカムの動きと、アンジー・ディキンソンの悩ましげな表情の変化が見事にシンクロしていく。ケイトの目線の先にある恋人たちや家族、展示されている絵画が彼女の欲望を暗示しながら、相手の男と出会いそうで、なかなか出会わないスリルも相まって、観る者を怪しい陶酔感に引き込んでいくのだ。


 その後、美術館を出たケイトが、館内で落とした片方の手袋を、例の男がタクシーの窓からチラつかせるのを見つける。タクシーの中での濃密な絡みへと発展するが、これは実際にNYの5番街でタクシーを走らせながら撮影された。激しいラブシーンは、前後左右のドライバーや乗客から丸見えだったという。この車内で落ちるケイトの下着や、その前の手袋など、フェティシズムに溢れた描写も公開当時、話題を呼んだ。



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