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『あのこと』オードレイ・ディヴァン監督&アナマリア・ヴァルトロメイ 衝撃の映画体験で「壁」を超える【Director’s Interview Vol.267】

© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB FILMS

『あのこと』オードレイ・ディヴァン監督&アナマリア・ヴァルトロメイ 衝撃の映画体験で「壁」を超える【Director’s Interview Vol.267】

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映画体験、それは「自分」を超えること



Q:男性の観客としては、劇中の出来事を究極的には想像することしかできないという思いもあります。女性が身体感覚で感じることを、男性は心の痛みでしか感じられないのではないかという無力感ですね。そういった決定的な違いに対し、この映画に何ができるのか、どういった可能性があるのか、考えをお聞かせください。


オードレイ:私にとっては、そういう決定的な違いを乗り越えられるのが映画なのです。フランスではたくさんの男性が、この映画を観てお腹の痛みを感じたといいますし、中には失神した人もいると聞きます。映画は自分が日常的に経験できないものに触れられる手段であって、ジェンダーを超えて体験を共有できる力があると思います。そうした体験を観客に伝えられる唯一の可能性だと思うのです。だから私は、この映画で長回しを使うことにしました。観客が出来事を理解するのではなく、実際にその場に立ち会っているような感覚を得られるように。


アナマリア:自分を超えた経験ができる。私もそれが映画の力だと思います。



『あのこと』© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB FILMS


Q:私もこの映画を観て、自分のお腹が痛むような感覚をおぼえたので、そうした映画の力を信じたいと思います。出会った観客の反応で驚かされたものはありましたか。


オードレイ:私が一番驚いたのは、そもそも中絶に反対している方たちと出会い、実際に話し合いができたことです。その時、ある女性から言われたのは、「理論的には中絶に反対だけれど、映画を観て、こんなにも大きな孤独や痛み、勇気を背負うのだと知って動揺した」ということでした。


Q:すばらしいことだと思います。ちなみに、その一方で本作を特定の世代の観客に届けたいという願いはあったのでしょうか。


オードレイ:もちろん、いろんな世代の方々に観ていただくことが大切です。しかし現在、世界では妊娠中絶が重要なトピックとなっていて(※)、これは守られるべき権利。そういう意味では若い世代の方に観てほしい、気にかけてもらいたいと思っています。


(※)2022年6月24日、アメリカの連邦最高裁判所が、女性の妊娠中絶を「憲法で定められた権利」だと認めたロー対ウェイド判決を覆し、“中絶は違憲”との判決を下した。この判決に国際社会は動揺し、国内外から懸念の声が殺到。世界各国でも風潮が変わるのではないかと危惧されている。



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©Richard Giannoro

監督・脚本:オードレイ・ディヴァン

1980年、フランス生まれ。2008年から脚本家として活躍し、セドリック・ヒメネス監督の『フレンチ・コネクション -史上最強の麻薬戦争-』(14・劇場未公開)、『ナチス第三の男』(17)、『バック・ノール』(20・配信)などの脚本を手掛ける。2019年に『Mais vous êtes fous』(原題)で監督デビュー。そして監督2作目となる本作で、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、英国アカデミー賞、セザール賞、ヨーロッパ映画賞、ルミエール賞など数々の栄誉ある賞にノミネートされ、世界的にその名を知られる。さらなる期待が高まる新作『Emmanuelle』(原題)では、製作と脚本も担当し、レア・セドゥ主演と発表されている。 




©François Berthier

主演(アンヌ):アナマリア・ヴァルトロメイ

1999年、ルーマニア生まれ。12歳の時に『ヴィオレッタ』(11)で映画デビュー。写真家である母親に幼い頃にヌード写真を撮られた女優のエヴァ・イオネスコが、自らの経験を元に監督した問題作で、彼女をモデルにした役を演じ話題となる。その後、『乙女たちの秘めごと』(17・劇場未公開)、『ジャスト・キッズ』(19)、ジュリエット・ビノシュ主演の『5月の花嫁学校』(20)などに出演。本作で、セザール賞最優秀新人女優賞、ルミエール賞に輝き、2022年のベルリン国際映画祭でシューティング・スター賞を受賞するなど、今後が期待される若手俳優のトップに躍り出る。



取材・文: 稲垣貴俊

ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。




『あのこと』

12 月2日(金) Bunkamura ル・シネマ他 全国順次公開中

配給:ギャガ

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