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『あのこと』オードレイ・ディヴァン監督&アナマリア・ヴァルトロメイ 衝撃の映画体験で「壁」を超える【Director’s Interview Vol.267】

© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB FILMS

『あのこと』オードレイ・ディヴァン監督&アナマリア・ヴァルトロメイ 衝撃の映画体験で「壁」を超える【Director’s Interview Vol.267】

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アンヌの痛みを表現する



Q:アナマリアさんに質問です。アンヌが経験する心身の痛みや身体の変化は、言葉ではすべてを表現しえず、原作の小説でさえも表現に限界があるものだと思います。そうしたアンヌの痛みを、どのように自分のものとして表現していきましたか?


アナマリア:監督がおっしゃったように、内面の言葉を書くことで精神的な痛みを整理していきました。原作の文章を時々思い出していたのですが、主人公は中絶したあと、パンツの中に血が出ていないか、まだ血は出ないのか、ということしか考えられなくなってしまいます。まるでそのことに取りつかれてしまっているように。それくらい追い詰められ、苦しんでいる感覚を演じたかった。また、身体の痛みについては、すべてを解放し、自分が感じたまま演じることにしました。


オードレイ:撮影現場ではいろいろと試す時間がありました。アナマリアは自らリスクを背負い、これがふさわしいと思えるものが見つかるまで実験を繰り返してくれたんです。こうした演技のためには実験の必要があった、ということですね。



『あのこと』© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB FILMS


Q:1960年代が舞台ですが、そのことを忘れてしまうほど現代的な作品です。それでも当時と現在はまったく異なる時代と言えるわけですが、このギャップをどのように捉えていましたか。


アナマリア:アンヌを演じるにあたり、私自身は特に60年前の古さを感じたところはなく、むしろ今でも存在する一人の女の子だと考えていました。


オードレイ:時代の違いについて考えたのはただひとつ、俳優の台詞のリズムだけでした。しかし最初のうちから、「60年代の喋り方を再現することはしないでおこう、作り物めいてしまってリスキーだから」と話していました。もちろん、リズムというのは音楽のことではなく、インターネット以前の時代は今よりもすべてがスローだったということ。そこで台詞のリズムをゆっくりとさせ、60年代当時のテンポに近づけました。


Q:監督にとっては難しい題材、アナマリアさんにとっては難しい役柄だったと想像します。撮影前にどんな準備をされたのか、原作以外のどんな作品から影響を受けたのかをお聞かせください。


オードレイ:撮影前はコロナ禍でロックダウンの最中だったので、アナマリアとたくさんやり取りをしていました。一日置きに連絡を取り合い、刺激を受けた映画の話をしたんです。ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』(99)や、アンドレア・アーノルドの『フィッシュ・タンク』(09)、そして『Girl/ガール』(18)……


アナマリア:あと『冬の旅』(85)も。


オードレイ:そう、アニエス・ヴァルダの『冬の旅』。そういう映画の話から共通言語が生まれ、アンヌのキャラクターが固まりました。『冬の旅』でサンドリーヌ・ボネールがまっすぐに立ちつくす姿や、『ロゼッタ』でエミリー・ドゥケンヌが地平線を見つめる表情など、あらゆるインスピレーションから私たちのアンヌが生まれたのです。





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