撮影に向かうこと、試合に向かうこと
Q:役が決まってから撮影まで3ヶ月しかなかったそうですが、プロボクサーとしての仕上がりが圧倒的です。トレーニング中はボクシングの技術を身につけながらも、ケイコになることも意識されていたのでしょうか。
岸井:(しばらく黙考)うーん。ケイコになるというのは、ちょっと違うかもしれないかな…。どうなんだろう…。
三宅:僕らが試合シーンの撮影に向かっていく行為と、ケイコが試合に向かうという行為が、シンクロしていったようなところもありますよね。試合にどうやって勝つか、試合に向けてどう自分をコントロールしていくかを考えることが、自然とケイコでいることに近づいていく。僕らも試合シーンの撮影に向かって集中していく感じがあった。だから「ケイコってこういう人だよね」と話して詰めていくのではなく、「そろそろ試合だから、ステップもうちょい練習するか」「もうちょっとコンビネーションミットやろうか」とボクシングの練習をすること自体が、自然とケイコでいることになったのではないでしょうか。
『ケイコ 目を澄ませて』©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
岸井:確かにそうですね。ケイコという遠い人物に近づいていくというよりも、もっと近い存在がここにいる。ケイコの魂が一緒にいた感じがしました。私とケイコの思いは一緒で、ケイコが試合にかける思いと私が映画にかける思いが同じだったのかな。
Q:試合シーンは本当に打ち合っているようにしか見えず、とても驚きました。どうやって撮影されたのですか?
三宅:相手選手とも練習を重ねて、安全な準備をして撮影に臨みました。その辺りは、俳優として今まで培って来た経験を元に、まさにプロフェッショナルな技術が発揮されていると思います。それがボクシング映画として真に迫ったシーンになっている。それは本当に岸井さんのおかげであり、トレーナーの松浦慎一郎さんのおかげあり、出演してくださった相手選手のおかげですね。