ケイコとしているための環境を作ってくれた
Q:松浦さんの名前が挙がりましたが、三浦友和さんをはじめ、三浦誠己さん、佐藤緋美さんなど、ケイコを見守る周りの方々もとても魅力的でした。
三宅:嬉しいです。自分が監督という立場で果たすべき責任は、出演者全員に思う存分活躍してもらうことですが、とにかく皆さんそれに応えてくださった。松浦さんは本当に魅力的な方で、彼から教わったことはボクシング以外にも沢山ありますし、三浦誠己さんはジムの雰囲気全体をコントロールしてくれました。監督は僕一人ではないと思っています。松浦さんも岸井さんの監督であり、ジムを監督しているのは三浦友和さんであり、また三浦誠己さんでした。三浦友和さんが全体を穏やかに見守ってくださっている一方で、誠己さんがジムのメンバーたち一人一人それぞれを見てくれていた。そうした力のおかげで、僕らも撮りきることが出来たのだと思います。
それは、ケイコの自宅での撮影も同じでした。弟役の佐藤緋美くんが同じようにそこにいてくれたおかげで、「こういう人たちを撮れて良かったな」と、喜びながら撮っていました。
『ケイコ 目を澄ませて』©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
岸井:皆さん本当によかったですね。友和さんも誠己さんも松浦さんも緋美くんもジムの練習生の皆も、ケイコがケイコとしてそこにいるための環境を作ってくれた。言葉はなくても支えてくれていることは感じましたし、このジムを本気で守りたいとすらと思いました。
また、3月の寒い時期での撮影にも関わらず、皆の練習がものすごくて、滴る汗が止まらなかった。衣装が汗でビショビショに濡れていて、衣装部が困ってましたね。カメラに写る、写らないに関わらず、皆本気でやってくれていました。
三宅:そういう気持ちいい人たちばかりだったね。
岸井:実際にあのジムの方が二人出演してくれて、すごくいい演技をしてるんです。会長がジムを閉める話をするときに、ジムの皆が映っていて、それぞれの思いの表情をされていました。あのシーンには私はいなかったので、実際に出来上がった映画を観て「私このジムにいたんだよなぁ…」って感慨深かったです。
三宅:とても居心地のいい、素晴らしいジムでした。 クランクアップの時は終わっちゃうのが寂しくて、ひょっとして泣きべそ?って思うくらい、涙を流している人が多かったですね(笑)。そういう愛情を持った人たちばかりでした。
『ケイコ 目を澄ませて』岸井ゆきの
Q:16mm撮影が非常に効果的で、とにかくカッコよかったです。
三宅:いいですよねえ。映画というものは、カッコいいものであってほしいと思っています。
岸井:いや、本当にカッコいいですよ(笑)。
Q:中でも高架下のシーンがとても印象的でした。夜、お巡りさんに職務質問された後、高架下をケイコが歩き電車の光が走るところは、屈指の名ショットだと思いました。
岸井:あれ超カッコいいですよね。本当にすごいです。
三宅:ああいうロケーションを見つけてくれたスタッフや、然るべき光と闇を生み出してくれた撮影部と照明部、そして、向かい風を受けて重たいコートをなびかせながら歩いてくれた岸井さん、あんないいショットを撮らせてもらえたのは本当に皆のおかげです。映画はやっぱり皆で作るものだと思います。
Q:時間が経っても歴史に残るショットになっていて、この映画自体がその力を持っている気がしました。
三宅:ありがとうございます。長く愛していただける映画になってくれればと思います。
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監督・脚本:三宅唱
1984年生まれ、北海道出身。一橋大学社会学部卒業、映画美学校・フィクションコース初等科修了。主 な監督作品に、『THECOCKPIT』(14)、『きみの鳥はうたえる』(18)、『ワイルドツアー』(19)などがある。『Playback』(12)では、ロカルノ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品され、第22回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞。『呪怨:呪いの家(全 6 話)』(20)がNetflixのJホラー第1弾として世界190カ国以上で同時配信され、話題となった。その他、星野源のMV「折り合い」なども手掛けている。
岸井ゆきの
1992年2 月11日生まれ、神奈川県出身。2009 年に女優デビュー。その後、映画、舞台、テレビドラマなど幅広く活躍。2017年、『おじいちゃん、死んじゃったって。』(森ガキ侑大監督)で映画初主演を務め、第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を、19年『愛がなんだ』(今泉力哉監督)では、第11回TAMA映画祭最優秀新進女優賞ならびに第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その他近年の主な映画出演作に、『空に住む』(20/青山真治監督)『ホムンクルス』(21/清水祟監督)、『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』(21/松井大悟監督)、『やがて海へと届く』(22/中川龍太郎監督)、『大河への道』(22/中西健二監督)、『神は見返りを求める』(22/吉田恵輔監督)、『犬も食わねどチャーリーは笑う』(22/市井昌秀監督)などがある。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『ケイコ 目を澄ませて』
12月16日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS