©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
『レジェンド&バタフライ』木村拓哉 撮影所が楽園になる瞬間とは【Actor’s Interview Vol.28】
等身大の信長にしたい
Q:木村さんが信長を演じるのは二度目ですが、今回の古沢さんが書かれた信長像はいかがでしたか。
木村:古沢さんが書いてくださった世界観は面白かったし、読んですぐに理解出来ました。ただ今回は信長と濃姫が軸になることもあり、やってみないとわからない部分があったのも事実。古沢さんが練り上げた織田信長を一度全部切り崩して、実際の撮影現場で再度練り上げたかった。古沢さんの書いたものに対して一切反発はないのですが、脚本は皆が共有する地図なので、その地図の中だけで構成されている信長だと、現場に現れたときに1対1になりづらい。脚本上の信長はちょっとデカイんですよ。だからもっと等身大にしたかった。皆さんが抱いている織田信長という偉人は、歴史とともに皮一枚ずつ大きくなっている。それを出来るだけ生身の人にしたい。そう思って現場ではやっていました。
また、今回はうつけの青年時代からクランクインしたのですが、その撮影が済んだと思ったら、次がいきなり物語終盤の撮影。スケジュールの都合で、一気に何十年も経った状況での撮影となってしまった。だから信長の造形に対して「経年の感じはこれで間違ってないよな?」と、監督やスタッフと何度も確認して撮影しました。実際に完成した映画を観ると、まるで順撮りしたかのようにつながっていたので、そこは体感していただければと思います。
『レジェンド&バタフライ』©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
Q:以前と今回では、信長に対するイメージは変わりましたか?
木村:以前演じた時のタイトルには「織田信長 天下を取ったバカ」とあったのですが、今思い返すと天下も取ってないし、色んなことが間違っていたなと思うんです。でもその間違いが許されるのが彼。今回改めて演じさせていただいて、彼は不安で弱かったんじゃないかなと思いました。濃姫と出会ったことにより、それまで彼の中には無かった“天下布武”という引き出しを濃姫に授けられてしまう。もし彼女と出会ってなければ、自国を守るだけですごく幸せな人生だったと思うんです。それまでは上に行くという意識がなかったのに、彼女からの言葉で新しい視点をもらってしまった。「言い出したのはお前だろ」という信長のセリフが、まさにそれが象徴していると思います。
Q:信長の何がこんなにまで人を惹きつけるのだと思いますか?
木村:伝統や文化、しきたりなど、日本人として重んじられるものに対して「ダサいものはダサい!」って言い切れるところじゃないですかね。それはある意味パンクだと思うし簡潔。たとえば、受験で高い点数を取るために一生懸命勉強している人がいるとしたら、彼は「何のためじゃ?」って普通に聞いてくると思う。それで「どこどこの高校に入るため」という答えを持っていたとしても、「そこに行って何になる?」と言ってくれると思うんです。そういうところだと思いますね。