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『2046』なぜタク/木村拓哉は列車に乗るのか? ウォン・カーウァイが描く資本主義と時代の不安
『2046』あらすじ
かつてチャン夫人ことスー・リーチェンと不倫関係に陥り、そして関係を断ったチャウは、1966年、激動期の香港に戻ってきた。しかしチャウは、いまだ夫人との恋愛を忘れられずにいる。そこに新たなヒロインたちが現れ、彼の人生に影響を与えていく。
「大きな秘密を抱えた者は、山で大木を見つけ、幹に掘った穴に秘密をささやく。穴は土で埋めて、秘密が漏れないように永遠に封じ込める」。ウォン・カーウァイ(王家衛)による“60年代3部作”の完結編『2046』(04)は、前作『花様年華』(00)のラストで語られた言葉がキーワードだ。映画のファーストカットは、大木の穴を思わせる大きな空洞。木村拓哉演じるタクは、冒頭のモノローグで同じ意味の言葉を口にする。
カーウァイは本作を『花様年華』の続編ではないと言った。しかし、主人公は同じチャウ・モウワン(トニー・レオン)であり、物語はしっかりと繋がっている。それどころか、“60年代3部作”の第1作『欲望の翼』(90)から再登場する人物もおり、この3部作はもはや「ウォン・カーウァイ・ユニバース」とも言うべき巨大な世界観を織り上げているのだ。したがって本稿の内容も、『花様年華』について記した「『花様年華』曖昧な時間経過と曖昧な関係、そして移ろいゆく香港」に続くものとなる。
Index
激動の香港、走り続ける列車
かつてチャン夫人ことスー・リーチェンと不倫関係に陥り、そして関係を断ったチャウは、1966年、激動期の香港に戻ってきた。しかしチャウは、いまだ夫人との恋愛を忘れられずにいる。そこに新たなヒロインたちが現れ、彼の人生に影響を与えていくのだ。
物語の発端となる女性は、『欲望の翼』以来の登場となるルル/ミミ(カリーナ・ラウ)。彼女との出会いをきっかけに過去の記憶を想起したチャウは、ホテルの2046号室に泊まろうとするが、訳あって隣室の2047号室を案内された。そこでチャウは、2046号室の宿泊客バイ・リン(チャン・ツィイー)、支配人の長女ワン・ジンウェン(フェイ・ウォン)らに出会い、また過去にシンガポールで愛した賭博師の女性(コン・リー)との思い出を回想することになる。
『2046』予告
この部屋の中で、チャウはさまざまな小説を書く。そのうちのひとつが、愛を求める男女が未知の土地〈2046〉を目指すSF小説「2046」。そしてもうひとつが、日本人のタクが〈2046〉を去る列車に乗り、その車内でアンドロイドのwjw1967(フェイ・ウォン)に恋をするという「2047」である(主に劇中で取り上げられるのは「2047」のほうだ)。ちなみに“2046”という数字は、『花様年華』でチャウとチャン夫人が密会したホテルのルームナンバーでもあった。
1966年の香港と、〈2046〉をめぐる2本の劇中小説。虚実入り交じる二重構造によって、カーウァイは『花様年華』以上に複雑なストーリーを語っていく。なぜなら本作『2046』は、『花様年華』と同じく1960年代を舞台にしながら、明らかに1997年の香港返還以降に焦点を当てた映画だからだ。また、前作と同じく政治的なテーマをはらんでいるが、ある意味では、前作以上に純粋な〈恋愛映画〉でもある。