ⒸTobias Henriksson
『逆転のトライアングル』リューベン・オストルンド監督 地獄のディナーシーンはどのように生まれたか【Director’s Interview Vol.284】
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痛烈な社会批評、なぜコメディで表現する?
Q:原題の『Triangle of Sadness』(悲しみの三角形)とは何を指しているのでしょうか?
オストルンド:これは美容業界で使われる用語です。ある友人がパーティで形成外科医の隣に座ったところ、その医者が彼女の顔を見て「あなたには深い“悲しみの三角形”がありますね。私なら15 分あればボトックスで治せますよ」と言ったという話を聞いたんですが、医者が言っていたのは眉間の皺のこと。スウェーデンでは「トラブルの皺」と呼ばれていて、人生における悩み事の多さを示しています。現代社会におけるルックスへの強迫観念や、ある意味で精神的な充実が後回しになっていることを表したエピソードだと思いました。
Q:本作に限らず、あなたの作品は「風刺コメディ」と呼ばれます。人間や社会を笑い、その本質を掴み取っていくからですが、なぜ監督は「コメディ」というジャンルを選ぶのでしょうか。コメディにすることで、どんな効果が得られるのでしょうか?
オストルンド:えっと……ある友人から聞いた話をしなければいけませんね。映画祭のためにヴェネツィアからトロントに移動するとき、業界人と一緒に飛行機に乗っていると、誰もが「“ドラマ”とは重要な話題を扱ったアートハウス作品のことで……」といった真面目な話をしているというんです。ただし友人は、そんな中で「業界人は機内でどんな映画を観ているんだろう?」と気になったらしいんですね。そこで、彼らが実際にどんな映画を観ているのかと観察していたら、結局みんなアダム・サンドラーのコメディ映画を見ていたって(笑)。もちろん、決してアダム・サンドラーが悪いわけではありませんよ。それくらい、コメディには人々に波及する力があるということです。
『逆転のトライアングル』Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
もちろん、僕たちは自分自身が観たい映画を作るべきだと思います。けれど、「この映画はハイアートだ、高尚なんだ」という口ぶりで映画を作ることはできないし、そういう作品は実際に観てもらえません。そういう時、ヨーロッパの映画システムにはリスクがあることを実感するんです。国から助成金をもらって映画を撮ることが多いので、(作り手が)経済的に安全でいられる。しかし、それゆえに「経済的に安全だからたくさんの観客に観てもらわなくてもいい、観客に届かなくてもいい」という風になりかねないんです。そうすると、作り手と観客の間にはどんどん距離が生まれてしまいます。
だからこそ『フレンチアルプスで起きたこと』(14)と『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(17)、そして今回の『逆転のトライアングル』を作るときは、いつも「自分が観たい映画にすること」を大切にしていました。面白い映画の作り方に違いを作るようなことはしたくなかったんです。なぜなら僕は、どの作品も楽しい映画にしたいし、示唆に富んだ映画にしたいし、思慮深い作品にしたいから。そして、もちろん観た後に語り合える映画にしたいからです。自分が達成すべきことはいくつもあるわけですよね。けれども僕は、そういう体験を作り出すことと、それを楽しい映画にすることは必ず両立できると思っているんです。
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ⒸTobias Henriksson
監督・脚本:リューベン・オストルンド
1974年4月13日、スウェーデン生まれ。長編デビュー作『The Guitar Mongoloid』(05)でモスクワ国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞。その後に手掛けた長編映画は、すべてカンヌ国際映画祭でプレミア上映されており、同映画祭において2作連続でパルムドールを受賞した、史上3人目の監督。短編映画『Incident by a Bank』(10)はべルリン国際映画祭金熊賞を受賞。『プレイ』(11)ではスカンジナビア半島において最も重要な賞である北欧理事会映画賞を受賞している。
取材・文:稲垣貴俊
ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。
『逆転のトライアングル』
2月23日(木・祝)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ギャガ
Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
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