支えてくれたスタッフたち
成瀬:私の映画でいちばん労力がかかるのがプロレスシーンでした。収容人数が200名ほどの実際のプロレス会場で撮影したのですが、何とかそこを満席に見せたかった。ただし最初の段階で、エキストラを50人にして美術を豊かにするか、美術を少し減らしてエキストラを150人にするか、どちらでやるかの選択を迫られました。それでカメラマンの鈴木雅也さんとも相談し「エキストラは50人で、でも満席に見せるための工夫をする」と決めました。リングの四方全体に人がいなくても、一方を撮ったらエキストラに移動してもらいまた別の方向を撮ったり、人のパネルをたくさん作ってごまかしたりしました。今回のラインプロデューサーである小柳智則さんが、AIから人の顔を抽出してパネルを作ってくれたので、そのパネルの集団は「小柳隊」と名付けられていました(笑)。小柳さん含めたエキストラとその小柳隊を動かしながら撮影を進め、スモークも炊いたりして、皆さんのいろんな工夫のおかげで、結果エキストラ50人でも満員に見せることができました。いかに現場で作り込めるかで、いい映画ができる。それをすごく学びました。
また、カメラマンの鈴木さんとはかなりみっちり打合せをしました。特にプロレスシーンは最初にカット割りを全部決めなければならず、それをスタッフ・キャスト全員に共有する必要がありました。それでも現場では、役者の動きが決まるとカメラワークも変わってくる。それで「このカットいらないかな」と私が言うと、「でもこのカットは、他とのつながりで心情を見せるために必要ですよ」と鈴木さんが説明してくれたりする。そうやって二人で話しながらいろんな判断をしていきました。プロレスのシーンは1日で全部撮る必要があったのですが、その甲斐もあって83カット全てを撮りきることができました。ほとんど苦行のようでしたが(笑)、やりきれたのは鈴木さんと一緒に出来たからですね。
成瀬都香さん
岡本:プロダクションの方とはビジネスライクな距離感を想像していたのですが、出会ったときからとても距離が近くて驚きました。プロデューサーの田坂公章さんは「この作品はこうした方がもっといい映画になると思うんです」と、作品愛に溢れ作品主体で話してくださいました。「この作品に合うカメラマンはこの人だと思う」「このスタッフは百戦錬磨だから仕掛けの部分はまかせておけば安心」など、すごく親身になってスタッフィングしてくださいました。
一方で、集まってくれたスタッフさんはめちゃめちゃ厳しかったです(笑)。「意味わかんない」「これダサいよ」などバンバン突っ込まれたのですが、それもいい作品を撮ろうという思いから来るもの。僕の作家性は尊重してくださっていたので、スタッフの意見に怯えるようなことはなかったです。だからなのか、自分の監督作品という感覚があまりなくて、スタッフの皆さん全員が作家であり、俳優さんも含めていろんなクリエイティビティが結集して出来たのがこの作品。自分の手を離れて大きくなったような感じもあり、すごく気に入っています。
『うつぶせのまま踊りたい』 監督・脚本:岡本昌也
1995年生まれ。劇作家・演出家・映画監督。演劇・映像を主軸に様々なカルチャーを横断しながら、パスティーシュを駆使したポップで散文的な作風でミクストメディアな作品を多数発表。2021年「ボレロの遡行」(作・演出)でかながわ短編演劇アワード2021グランプリ受賞。初監督映画『光の輪郭と踊るダンス』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021〈ゆうばりホープ〉に選定。演劇・映画ともに今後の活躍が期待されている。
『ラ・マヒ』 監督・脚本:成瀬都香
神奈川県生まれ。韓国ソウルに4年在住。韓国のインディーズ映画にハマり、ミニシアターに足繁く通う。映画美学校フィクションコース20期に入学。修了制作の短編『泥』がソウル国際プライド映画祭、TAMA NEW WAVE、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭などに入選。アマチュアでプロレスの試合に出場し、後楽園ホールのリングに立ったこともある。
『サボテンと海底』 監督・脚本:藤本 楓
1995年神奈川県生まれ。多摩美術大学にて舞台衣裳や特殊小道具のデザイン・製作を学ぶ。在学中は自主映画やドラマ、MVの現場に美術部として参加。大学卒業後は東京藝術大学大学院に進学し、桝井省志氏、市山尚三氏に師事。映画製作について学ぶ。
『デブリーズ』 監督・脚本:牧 大我
1998年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部在学。文化人類学を専攻。映画、漫画、文学、神話など物語全般に関心を持ち、大学4年時に親友たちと映画制作を始める。写真家、作曲家、アニメーターと共に、幡ヶ谷の古民家「凡蔵」を拠点に制作活動をしている。怠惰な男の一日をテーマにした短編映画『ダボ』にてSSFF & ASIA 2022に入選。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2022」 2月17日(金)〜23日(木・祝)角川シネマ有楽町、3月10日(金)〜16日(木)ミッドランドスクエア シネマ3月17日(金)〜23日(木)シネ・リーブル梅田
配給:特定非営利活動法人映像産業振興機構 (VIPO)
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