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『海を駆ける』公開記念 深田晃司監督による特別寄稿「宮崎駿とわたし」

『海を駆ける』公開記念 深田晃司監督による特別寄稿「宮崎駿とわたし」

 2018年5月26日、最新作『海を駆ける』(ディーン・フジオカ主演)が公開される深田晃司監督。2016年公開の『淵に立つ』では第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞、つい先日は、フランス文化省から芸術文化勲章のシュバリエ(騎士)が授与されることも発表された。映画監督としてそのキャリアを不動のものとしつつある深田監督だが、そもそも映画との出会いは何だったのか?今回、特別に寄稿してもらった。


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中学二年生の私を、あっという間に虜にした『ラピュタ』



 「映画との出会いは?」と聞かれると、私はいつも中学三年生のときに観た『ミツバチのささやき』を挙げる。72年にスペインで撮られた、ビクトル・エリセ監督による映画史に残る大傑作である。当時背伸びをして読んでいたある映画批評の本でその名前を知った。家族の寝静まった深夜に居間の電気を消して、ひとりケーブルテレビで鑑賞し、しこたま心を揺さぶられたのを覚えている。主演のアナ・トレントの眼差しは、その後の私の人生を映画の奈落へと突き落とすこととなったのだ。


 しかし、本当のことを言うと、人生で初めて惚れ込んだ映画は『ミツバチのささやき』ではなかった。私の父は映画好きで数百本もの古今東西のVHSテープが居間の棚のそこかしこに鎮座していて、そのひとつにそれはあった。『天空の城ラピュタ』である。中学二年生の春頃に初めて見て、『ラピュタ』はあっという間に私を虜にした。


 にも関わらず、映画の関わりのスタートラインについ『ミツバチのささやき』の名を挙げがちなのは、そこにシネフィル的自意識があることは否定できないが、何よりも当時の私は『天空の城ラピュタ』に対し「映画」を見ているという意識がなかったからだ。映画とかアニメとかそういったジャンルを飛び越え、体験として享受し、ただただまっすぐに宮崎駿を尊敬していた。


 多幸感に満ちた小学生時代を終えた私は、中学校に入るや否や、今も続く劣等感に満ちた人生が幕開けた。勉強はできないし得意だと思っていた絵も美術部にはもっと凄いやつがいるし、その上自分は吃りで早口で他人とうまくコミュニケーションが取れない。そんな鬱々とした毎日を過ごしていた私にとって、『ラピュタ』の鉄と蒸気と魔法と冒険とユーモアと純愛と狂気とお宝と、すべてが混然としたその世界は、まさに血沸き胸踊る総天然色に輝いていた。


 14歳の私はとにかく宮崎駿にはまってしまい、『ラピュタ』と『ナウシカ』を足して2で割ったようなファンタジー小説もどきを書いたり、根暗な文科系オタク小僧の自分とは真逆の健康優良児パズーに憧れ過ぎて、なぜか毎朝ジョギングを始めてしまったりもした。そうそう、シータの唱えるラピュタ語の「呪文」もそらで言えるようになっていて、周囲を気味悪がらせたものだ(今でも言える)。


 もちろん、宮崎駿やスタッフのインタビュー、作品のガイドブックや評論は、古本屋で探してはマメに購入し読み漁り、それから20年以上を経た今も、私の部屋の本棚の一角を占めている。当時読んだ、映画評論家の暉峻創三氏による、『ラピュタ』の物語の垂直構造を指摘した批評は目から鱗であったのを覚えている。



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