ドキュメンタリーとは意図的なもの
Q:ドキュメンタリーを撮っている人に話を聞くと、カメラを向けている以上「ありのままを捉える」ということは非常に難しいと聞きます。監督はドキュメンタリーというものをどのように捉えていますか。
フィリベール:その通りですね。ありのままを目指そうとしても、基本的に無理なんです。カメラが存在するだけで現実には何らかの変化が生まれ、目の前にいる人の態度も変わってしまう。それゆえ“リアル”という意味をどう定義するかは本当に難しい。ドキュメンタリーには必ず主観的な視点と解釈が入るもの。撮影対象も選択しているし、編集でも使用カットを選別している。ドキュメンタリーとは意図が入る主観的なものであり、完全にフェアなものとは言えません。
『アダマン号に乗って』© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022
Q:ニコラ監督の「どう編集するか考えながら撮影する」という言葉が非常に印象的です。実際の構成・編集はどのように行われたのでしょうか。
フィリベール:撮影しながら編集の順番を考えているわけではなく、あるシーンを撮りながら、それと共通するものや正反対のものなど、次に撮るものを選択している感じです。編集とは、膨大なラッシュから素晴らしいシーンを残す作業ではありません。素晴らしいシーンのアンソロジーではなく、全体構成を踏まえて残すことに意味があるかどうかの選択なんです。シークエンスとしてどんなに美しかったとしても、カットしてしまうことだってあります。
Q:日本の観客にメッセージを
フィリベール:精神疾患を持った人たちに対して恐怖感を抱いて壁を作ってしまいがちですが、この映画がそういった偏見を取り除く助けになればと思っています。彼らも私たちも共通項をもった同じ人間。この映画を観ることによって、自分たちの意識を彼らに向けて広げてくれると嬉しいですね。
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監督・撮影・編集:ニコラ・フィリベール
1951年ナンシー生まれ。グルノーブル大学で哲学を専攻。ルネ・アリオ、アラン・タネール、クロード・ゴレッタなどの助監督を務め1978年「指導者の声」でデビュー。その後、自然や人物を題材にした作品を次々に発表。『パリ・ルーヴル美術館の秘密』『音のない世界で』で国際的な名声を獲得。『ぼくの好きな先生』はフランス国内で異例の200万人動員の大ヒットを記録し世界的な地位を確立する。2008年には日本でもレトロスペクティヴが開催された。本作で第73回ベルリン国際映画祭金熊賞(最高賞)受賞。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『アダマン号に乗って』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開中
配給:ロングライド
© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022
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