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『EO イーオー』愛する相手の元へ急ぐロバの習性を利用したポーランドの巨匠

© 2022 Skopia Film, Alien Films, Warmia-Masuria Film Fund/Centre for Education and Cultural Initiatives in Olsztyn, Podkarpackie Regional Film Fund, Strefa Kultury Wrocław, Polwell, Moderator Inwestycje, Veilo ALL RIGHTS RESERVED

『EO イーオー』愛する相手の元へ急ぐロバの習性を利用したポーランドの巨匠

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『EO イーオー』あらすじ

愁いを帯びた瞳とあふれる好奇心を持つ灰色のロバ、EO。心優しきパフォーマー、カサンドラのパートナーとしてサーカス団で生活していたが、ある日サーカス団から連れ出されてしまう。予期せぬ放浪の旅のさなか、善人にも悪人にも出会い、運を災いに、絶望を思わぬ幸福に変えてしまう運命の歯車に耐えている。しかし、一瞬たりとも無邪気さを失うことはない。


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主人公として選んだのは自分の性格に近い動物



 動物を主人公にした映画はこれまでも数多く作られてきた。しかしドキュメンタリーやアニメーションではなく実写のフィクションの場合、主人公が動物だったとしても、同格の人間キャラクターが登場し、その目線になるケースが多い。またはCGによる動物が主人公となると、『パディントン』(14)や『ピーターラビット』(18)のようにファンタジー色が強くならざるをえない。


 しかし、そんな常識を破って映画の主人公としての役割を果たす動物がいる。それは、ロバだ。


 1966年、リアリズムの巨匠、ロベール・ブレッソンによる『バルタザールどこへ行く』は、一頭のロバの過酷な運命を通し、人間の罪や邪悪さを浮き彫りにした野心作。登場人物ではなく主人公のロバ、バルタザールに感情移入してしまうという奇跡の化学反応を起こす。なぜロバにここまで心が寄り添ってしまうのか……。同作を「唯一、人生で涙を流した映画」とするのが、ポーランドのイエジー・スコリモフスキ監督だ。車に夢中の青年の恋と成長を軽やかに描いた『出発』(67)でベルリン国際映画祭の金熊賞に輝いたほか、カンヌやヴェネチアでも受賞を重ねたスコリモフスキが、『バルタザール』にインスパイアされ、同じロバを主人公に撮り上げたのが『EO イーオー』である。



『EO イーオー』© 2022 Skopia Film, Alien Films, Warmia-Masuria Film Fund/Centre for Education and Cultural Initiatives in Olsztyn, Podkarpackie Regional Film Fund, Strefa Kultury Wrocław, Polwell, Moderator Inwestycje, Veilo ALL RIGHTS RESERVED


 『EO イーオー』も、1頭のロバ(名前がEO)が主人公なのだが、『バルタザール』以上に、複雑な運命をたどる。そして映画を観るわれわれは、EOが行き先々で出会う人間ではなく、EOの目線とひとつになり、その運命に心が掴まれていく。ここで再び同じ疑問が湧き上がる。なぜ、ロバなのか……。『バルタザール』に影響を受けたとはいえ、映画の主人公として多くの動物の中からロバを選んだ理由を、スコリモフスキ監督は次のように語る。


 「ブタだったり(『ベイブ』/95)、羊だったり(『LAMB/ラム』/21)、さまざまな動物を主人公にした映画が過去に作られてきましたが、重要なのは、作り手がその動物と一体感を得られるかどうか。動物の代表として、観客にドラマを語りかけられるかどうかです。私の場合、それがロバでした。あの憂鬱でメランコリックな瞳に魅せられたんです。私が世界や周囲の人々を見つめる際の猜疑心が、ロバの瞳に重なりました。おそらく性格的に、私はロバにいちばん近いのかもしれません」


 つねにどこか悲しげで、どんな非情な仕打ちを受けても耐え忍ぶEOの瞳は、たしかに作品の中で最も脳裏に焼きつく。





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