© 2022 Skopia Film, Alien Films, Warmia-Masuria Film Fund/Centre for Education and Cultural Initiatives in Olsztyn, Podkarpackie Regional Film Fund, Strefa Kultury Wrocław, Polwell, Moderator Inwestycje, Veilo ALL RIGHTS RESERVED
『EO イーオー』愛する相手の元へ急ぐロバの習性を利用したポーランドの巨匠
赤い画面が示すのは危険への予感
そしてこの『EO イーオー』は、「色」が象徴的に使われる。EOが森をさまようシーンで、周囲の動物たちに照射されるレーザー光線の「グリーン」も印象に残るが、冒頭のサーカス団のシーンや、EOの夢と思われるシーンなど、幾度となく登場する「真っ赤」な映像が強烈なインパクトを残す。スコリモフスキがこの「赤」に意味を持たせているのは明らかだ。年上女性への妄想ともいえる恋を生々しく描いた『早春』(70)でも、塗られた赤いペンキが流れていくシーンがポイントになっていた。
「私は映画人であると同時に、画家でもあります。ですから色彩について独自の感受性を持っています。どの色が、どの感情を引き起こすのか熟知しているのです。この場合、赤は“危険”を象徴しています。次の瞬間に悲劇的な何かが起こることを予感させるわけです。本作は、人間の悪意や善意をロバが経験していくわけで、何か思いがけない転換をEOが気づいていることを、赤という色で示しました」
『EO イーオー』© 2022 Skopia Film, Alien Films, Warmia-Masuria Film Fund/Centre for Education and Cultural Initiatives in Olsztyn, Podkarpackie Regional Film Fund, Strefa Kultury Wrocław, Polwell, Moderator Inwestycje, Veilo ALL RIGHTS RESERVED
スコリモフスキ監督は、展覧会も開くほど画家として有名なほか、ロマン・ポランスキーの『水の中のナイフ』(62)には脚本家として参加。俳優のキャリアも長く、つまり映画監督というよりアーティストの肩書きがふさわしい。俳優としては、『ホワイトナイツ/白夜』(85)で、ソ連からアメリカへ亡命した主人公のバレエダンサー(ミハエル・バリシニコフ)をシベリアで捕らえるKGBのチャイコ大佐役を演じた。さらに『イースタン・プロミス』(07)では助産師アンナ(ナオミ・ワッツ)の伯父で自称・元KGBのロシア人、『アベンジャーズ』(12)ではナターシャ・ロマノフ(=ブラック・ウィドウ)を拷問するロシア人スパイのルチコフと、重要なキャラクターで、圧倒的な存在感を見せつけてきた。
「生まれながらの芸術家」と、スコリモフスキは自身を表現。「子供の頃から絵を描き、詩を綴り、戯曲や映画の脚本を書いてきました。音楽だけは十分な才能がなかったので、そこは諦め、最終的に映画監督がメインの仕事となったわけです。自分の才能に気づいたとき、それを有効に使うことが芸術家の義務ではないでしょうか」とも付け加える。
『EO イーオー』が日本で劇場公開となる2023年5月5日に、ちょうど85歳の誕生日を迎えたイエジー・スコリモフスキ。長い年月、この世界や人間たちをアーティストとして見つめてきた視点が、ロバのEO、その瞳に重ねられたのは当然のことだろう。
文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。
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『EO イーオー』
5月5日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、
ヒューマントラストシネマ有楽町他にてロードショー
配給:ファインフィルムズ
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