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『午前4時にパリの夜は明ける』80年代パリの夜を彷徨う粒子たち

© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

『午前4時にパリの夜は明ける』80年代パリの夜を彷徨う粒子たち

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『午前4時にパリの夜は明ける』あらすじ

1981年、パリ。結婚生活が終わりを迎え、ひとりで子供たちを養うことになったエリザベートは、深夜放送のラジオ番組の仕事に就くことに。そこで出会った少女、タルラは家出をして外で寝泊まりしているという。彼女を自宅へ招き入れたエリザベートは、ともに暮らすなかで自身の境遇を悲観していたこれまでを見つめ直していく。同時に、ティーンエイジャーの息子マチアスもまた、タルラの登場に心が揺らいでいて…。


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なまいきシャルロット



 ミカエル・アースは80年代パリの夜を彷徨う粒子に思いを馳せる。パリのメトロに舞い降りた少女タルラ(ノエ・アビタ)と周辺地図がオーバーラップによって重なる冒頭シーンで、早速この作品は”都市の映画”であることを示す。パリの夜に濡れる少女がこちらを振り向く魅惑的なタイトルバック。『午前4時にパリの夜は明ける』は、映画が始まって数十秒と経たない内に特別な映画になる予感を与えてくれる。


 エマニュエル・ベアール演じるヴァンダがパーソナリティを務める深夜ラジオ「夜の乗客」。ヴァンダの”声”に集まるのは、眠れない夜に生きるパリの人々だ。このラジオ番組は不眠症のパリの人々のためにある。「夜の乗客」では人には言えない秘密が、神父への告解のように告白される。不特定多数に向けて放送されるラジオという媒体は、広場や公園といった公共空間における人々の交わりを描いてきたミカエル・アースのテーマと密につながっている。公共空間のネットワークに音声という新たなネットワークが加わることで、ミカエル・アースの映画が放つポエジーはこれまで以上の深度を獲得している。



『午前4時にパリの夜は明ける』© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA


 この深度の中心にシャルロット・ゲンズブールの演じるエリザベートがいる。子供たちの前では”母親”の役割を演じることもできるが、一人になった途端に脆く崩れ落ちてしまうエリザベート。エリザベートというキャラクターの向こう側に『なまいきシャルロット』(85)のヒロインの姿が滲んでいる。臆病でナイーブな性格だが、ときに驚くほど大胆な少女シャルロット。シャルロット・ゲンズブールという俳優に刻印されている記憶が、ふとした瞬間に現れては消えていく。かつて『なまいきシャルロット』の中で迷子になっていたヒロイン。彼女こそが80年代の夜の粒子であり、パリの街に彷徨うポエジーなのだろう。





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