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『午前4時にパリの夜は明ける』80年代パリの夜を彷徨う粒子たち

© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

『午前4時にパリの夜は明ける』80年代パリの夜を彷徨う粒子たち

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ゴースト・ダンス



 「パスカル・オジェは、あの時代の真髄を体現しているようで、力強さと壊れやすさが混在していました。彼女の顔や声からは、狂おしいほどの喚起力が感じられました」(ミカエル・アース)*2


 ジャック・リヴェットの『北の橋』(81)の中で、パスカル・オジェはライダースジャケットを纏っている。『午前4時にパリの夜は明ける』のタルラと同じだ。パスカル・オジェの演じるヒロインは、ライダースジャケットについて”鎧”と形容していた。ジャック・リヴェットの映画でビュル・オジェが自前の衣装を纏っていたように、娘のパスカル・オジェも自分で選んだ衣装を纏っていたことで知られている。『午前4時にパリの夜は明ける』のタルラの衣装はパスカル・オジェへのイメージ上のオマージュに留まらず、むしろ彼女の内なる魂を召喚することを目的にしている。戦いの鎧=魂としてのライダースジャケット。



『午前4時にパリの夜は明ける』© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA


 本作ではエリック・ロメールの『満月の夜』(84)を見に行くシーンがある。パスカル・オジェはこの作品で美術も務めている。エリック・ロメールの映画で俳優が美術的協力者を担うのは例外的なことだ。そして『満月の夜』の公開から2か月後にパスカル・オジェは25歳の若さで逝去する。近い未来の企画としてジム・ジャームッシュとのプロジェクトも話し合われていたという。


 パスカル・オジェの映画に『Ghost Dance』(83)という作品がある。この作品の中で哲学者ジャック・デリダは「映画は亡霊の芸術」だとパスカル・オジェに告げている。亡霊のダンス。肉体が消滅してもその魂はフィルムの中で永遠に踊りに続ける。ミカエル・アースは『午前4時にパリの夜は明ける』で、この精神をフィルムに宿そうと試みている。80年代のフランス映画の中でいまも生き続ける少女時代のシャルロット・ゲンズブール、そして在りし日のパスカル・オジェのフィルムの粒子との対話。ある時代の精神を体現した彼女たちの魂は、消え去ってしまうことなく、いまもパリの街に広がり続けている。ロミー・シュナイダーに尊敬の念を抱き、シャルロット・ゲンズブールの映画を見て育ったというノエ・アビタ。彼女が演じるタルラは、この粒子の正統な継承者なのだろう。





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