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『冬物語』エリック・ロメールが描き出す、偶然への賛歌

©1991 Les Films du Losange

『冬物語』エリック・ロメールが描き出す、偶然への賛歌

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『冬物語』あらすじ

フェリシーはバカンス中に出会った青年シャルルと恋に落ちる。しかし別れはあっという間に訪れ、二人は離れ離れになってしまう。スナップショットのように撮られた一連の記録は、フェリシーにとって二度と忘れられない恋の記憶となった。そして5年後。フェリシーは図書館員のロイックと美容師のマクサンスという、二人の男性の間を行き交う生活をしている。しかしフェリシーのシャルルへの愛が揺らぐことはなかった。


Index


台詞による接近と後退



 エリック・ロメールの『冬物語』(91)はタイトルに反して、夏の終わりを思わせる海のイメージから始まる。フェリシー(シャルロット・ヴェリ)とシャルルによる束の間の恋の記録。バカンス中に出会った青年シャルルとの無邪気で情熱的な恋が、スライドショーのごとく矢継ぎ早に画面に展開されていく。しかし恋人たちの別れは、あっという間に訪れる。駅のホーム、そして列車という古典的なメロドラマの装置によって二人は離れ離れになってしまう。スナップショットのように撮られた一連の記録は、フェリシーにとって二度と忘れられない恋の記憶となる。フェリシーはシャルルの写真をいつも部屋に飾ることになる。


 「5年後」というテロップが表示される世界で、フェリシーは別の男性と暮らしている。しかしフェリシーがパリの町に繰り出すとき、彼女はシャルルの幻影を探し始める。ここから彼女の彷徨、喪失と再生の「冬物語」が始まる。バスや路上におけるフェリシーの突発的で動物的な視線や動線の定まらなさが、言葉を介すことなく彼女の内面の動きを表している。


 フェリシーはシャルルとの間にできた子を産み、二人の男性の間を行き交う生活をしている。図書館員のロイックと美容師のマクサンス。フェリシーは彼女に気持ちを寄せる男性たちにシャルルへの強い思いを一切隠すつもりがない。いつか自分の元から離れることが分かっているフェリシーを、むしろ二人はサポートしようとする。特にフェリシーの家族からも好感を持たれているロイックの愛は本物だ。「あれほどお前を愛する男がこの先現れるとは思えない」と母親はフェリシーに忠告する。それでもフェリシーのシャルルへの愛が揺らぐことはない。フェリシーはロイックのためを思ってアドバイスさえ送っている。「あなたの愛に応える人を探しなさい」。ロイックにとって、その言葉はひどく残酷だ。しかし彼女の本心から出てきた言葉でもある。ロイックもそのことを理解するのに時間がかからない。


 フェリシーの二人の男性に対する振る舞いは、他人からすれば自己中心的なのかもしれない。それでも本人たちにしか分からない関係性をベースに、お互いへの理解を示そうと努力する姿は、誰にも責めることができないものだ。同時に、こじれた感情に接近したり後退したりするゲームこそが、エリック・ロメールの映画の神髄でもある。


 エリック・ロメールの映画についてよく言われるエモーショナルな官能性は、思いがけのなさから生まれることが多い。本作ではフェリシーが男性たちに向けて言い放つ思いがけない言葉にこそ、官能性が宿っている。彼女の思いがけない言葉は対面する相手の感情を裸にしてしまう。急激に相手の感情をクローズアップさせたり、急激にすべてを俯瞰で見るようなフェリシーの予測のつかなさに、男性たちは強く惹かれている。




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