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『ベルイマン島にて』誰にも奪い去ることができない彼女の物語

© 2020 CG Cinéma ‒ Neue Bioskop Film ‒ Scope Pictures ‒ Plattform Produktion ‒ Arte France Cinéma

『ベルイマン島にて』誰にも奪い去ることができない彼女の物語

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「さよなら」の後の物語



 「『ベルイマン島にて』は『グッバイ・ファーストラブ』の最終章なのです」(ミア・ハンセン=ラブ)*


 忘れられない恋にリリカルにさよならを告げた『グッバイ・ファーストラブ』(11)から10年。この忘れがたい傑作で思い出すのは、ミア・ハンセン=ラブ監督が十代の若すぎた感情を決して裁かなかったことだ。苦しいばかりの感傷は、やがてヒロインが獲得する凛々しい表情の輪郭の一部となり、彼女と共に生き続ける。感傷はむしろ彼女を美しくしていく。ヒロインは思い出にさよならを告げることで、再び自分の物語を紡ぎ始めることを選んだ。


 ミア・ハンセン=ラブは、新作『ベルイマン島にて』(21)を『グッバイ・ファーストラブ』の最終章と位置付けている。傷つけ合ったかつての恋に静かに別れを告げた、その後の物語。スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンの原風景とされるフォーレ島への旅は、彼女にとって再び物語を始めるためだったのだろう。



 『ベルイマン島にて』© 2020 CG Cinéma ‒ Neue Bioskop Film ‒ Scope Pictures ‒ Plattform Produktion ‒ Arte France Cinéma


 ミア・ハンセン=ラブは自分の映画が自伝的であることを隠さない。映画作家のクリス(ヴィッキー・クリープス)は、同じく映画作家であるパートナーのトニー(ティム・ロス)と、互いの関係性の治癒、そして新作映画のインスピレーションを得るために聖地フォーレ島に向かう。本作の冒頭で描かれる飛行機の中で怯えるクリスのエピソードは、そのままミア・ハンセン=ラブ自身のエピソードなのだという。


 ミア・ハンセン=ラブがクリスに自身を重ねたように、クリープスもクリスという女性の肖像に自身を重ねている。ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』(17)で一躍脚光を浴びたクリープスは、撮影が終わった後はまるで素晴らしいラブストーリーに置き去りにされてしまったような気持ちに陥っていたという。クリープスもまた、『ファントム・スレッド』にさよならを告げ、再び自分の物語を創り直す必要を感じていた。クリープスが生まれて初めて映画作家による「演出」を理解した作品は、ミア・ハンセン=ラブによる『あの夏の子供たち』(09)だったという。この二人の出会いに運命的な導きを感じずにはいられない。


 企画当初は、『EDEN/エデン』(14)に出演したグレタ・ガーウィグとの間で、クリス役について話し合いが行われていたという。しかし、『ストーリー・オブ・マイライフ/私の若草物語』(19)を監督することが決まったガーウィグは、企画から離れることになってしまう。結果として、よりヨーロッパ的な容姿といえるクリープスがクリス役を務めたのは正解だったと思える。彼女はミア・ハンセン=ラブとよく似ている。完成した作品を一緒に見た際、自分たちで作った映画とは思えないくらい涙を流し合ったのだという。





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